法輪寺切(法輪寺切和漢朗詠集)巻下断簡 酒
羅紋状飛雲料紙 薄藍染紙雲母振
料紙は鳥の子紙で、藍と紫に染めた繊維を飛雲として漉き込んだ薄藍の染紙に、砂子状の雲母を紙面全体に鏤めた装飾料紙である。然もこの飛雲、他に類を見ない特殊な加工が施してあり、一つ一つの飛雲が羅紋状に形成されていて非常に価値の高い資料としても貴重なもの。一枚につき三か所の飛雲が施してある。
淡藍色 | 淡藍色 | 淡茶色・別注品 | 酒 |
淡藍色
約26cmx8.7cm
写真の状態があまりよくありませんがご了承ください。
漢詩・かな(黄文字は欠損部分) 水色文字は使用時母
485 酔郷氏之國,四時獨誇温和之天。酒泉郡之 煖寒從飲酒 民、一頃未知冴陰之地。 匡衡 486 菓則上林菀之所獻含自消、酒是下若村之 所傳傾甚美。 江 487 入酔郷 先逢阮籍爲郷導、漸就劉伶問土風。橘相公 488 同前 邑隣建徳非行歩、境接無何便坐亡。後中書王 489 酔看落水花 王勣郷霞縈浪脆、嵆康山雪逐流飛。保胤 490 ありあけの ここちこそすれ さかづきに、ひかげ もそひて いでぬとおもへば 能宜 |
485 酔郷氏の國には,四時獨り温和の天に誇る。酒泉郡の ご いん 民、一頃だにも未だ沍陰の地を知らず。 煖寒飲酒に従ふ 大江匡衡 486 くだもの たてまつ 菓は則ち上林苑の献る所、含めば自ら消えぬべし、 これ 酒は是下若村の伝うる所、傾くれば甚だ美なり。 大江朝綱 487 きゃうだう やうやく 先づ阮籍に逢うて郷導と為す、漸くに劉伶に就いて土風を 問う。酔郷に入る 橘正通 488 けんとく ちこ こ う ほ ぶ か 邑は建徳に隣うして行歩に非ず、境は無何に接して便ち 坐亡す。 前に同じ 具平親王 489 めぐ もろ けいこうざん お 王勣郷の霞は浪を縈って脆し、嵆康山の雪は流を逐うて 飛ぶ。 酔うて水に落つる花を看る 慶滋保胤 490 安利安介乃 己々知己所春礼 散可川支仁、比可介 毛曾比天 以天奴止於毛部盤 能宜 |
485 酔郷氏之國,四時獨誇二温和之天一。酒泉郡之 民、一頃未レ知二冴陰之地一。煖寒從二飲酒一 匡衡 486 菓則上林菀之所レ獻含自消、酒是下若村之 所レ傳傾甚美。 江 487 先逢二阮籍一爲二郷導一、漸就二劉伶一問二土風一。 入二酔郷一 橘相公 488 邑隣二建徳一非二行歩一、境接二無何一便坐亡。同レ前 後中書王 489 王勣郷霞縈レ浪脆、嵆康山雪逐レ流飛。酔看二落レ水花一 保胤 490 有明の心地こそすれ盃に、日影も副て出でぬと思へば (大中臣能宜) |
じょうりんえん 上林苑;中国は長安の西方に在った漢の庭園。秦の始皇帝が造り、漢の武帝が修理拡張した。天下の珍禽奇獣や百花奇草を集めた一大遊園地。王はここで秋冬に狩猟を行った。 げんせき 阮籍;魏、晋の隠者で竹林の七賢の首班。字は嗣宗、河南省陳留の出身で阮咸の叔父にあたる。老荘思想と酒を好み、俗人を白眼視して85首の「詠懐詩」を残した。 きょうどう 郷導;嚮導。先に立って導くこと。また、その人。 とふう 土風;土地柄や自然条件。 けんとく 建徳;南北朝時代の南朝、長慶天皇の時の年号。1370年7月24日~72年4月某日まで。 ざぼう 坐忘;静坐をして心を鎮め自分を取り巻く現前の世界を忘れること |
このページの | ちくりんのしちけん 竹林七賢;世塵を避けて竹林に会し清談を事としたと云われる隠士。老荘の空理を談じ、琴を弾いては酒に浸り勝手気ままを事とした風俗を指す。 げんせき けいこう さんとう しょうしゅう りゅうれい げんかん おうじゅう 阮籍、嵆康、山濤、向秀、劉伶、阮咸、王戎の七名。 えいかいし 詠懐詩;心に思うことを詩歌に詠んだ詩。 |
飛雲料紙代用可能一覧
(飛雲の位置は其々の料紙で多少の違いが有ります。気になる方は其々の料紙に合わせた特注品としてお造り出来ますが、割高にはなります。参考オリジナル料紙作成)
以下は代用可能な古筆の一覧ですが、飛雲は何れも通常の物です。
小島切 伝小野道風
深窓秘抄 伝宗尊親王
歌仙歌合 伝藤原行成
和歌体十種 伝藤原忠家
堤中納言集 伝紀貫之
名家歌集切 伝紀貫之
元暦校本万葉集 伝藤原行成・他
敦忠集切 伝藤原行成
伊豫切和漢朗詠集 伝藤原行成
紙撚切道済集 伝藤原佐理
他