和泉式部集切19　断簡模本

和泉式部続集切（続集下巻）（６寸８分×５寸２分）　　　
　
素色料紙（未晒しの楮色）が使われております。
当然滲み止め加工はしてあり、薄茶色は経年変化によるもの。
この断簡は継足し一葉で実際の一項分よりも幅が広くなっている。
右側一首及び詞書分半葉と、左側一首及び詞書3行分の方はおそらく2行分が切り取られた形である。
切取られた2行は、歌1316の下の句及び1317の詞書の前半と思われる。（歌1316の詞書は裏面に隠れていると思われる。）

素色（しろいろ）　　

第十九紙（一葉）素色（しろいろ）青灰（薄浅葱色）	清書用　臨書用紙　白色（しろいろ）２５.０ｃｍｘ３６.４ｃｍ　　　　　　　　宝唐草解説及び使用字母へ継ぎ目より右側部分の料紙の色は実物は薄浅葱色。２０.６ｃｍｘ１５.７ｃｍ
続集下巻　乙類断簡１７　歌４４（1315）　歌４５（1317）　歌４６（131８の詞書のみ）。	（　）内の歌番号は、岩波文庫本和泉式部集による通し番号

解説　第十九紙　（断簡１７）

　　　　　　　　　　　　かな　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　水色文字は使用時母　　　　　　　　　解釈（現代語訳）へ

　　　かたらふ人にあひみてのちみそめずは

　　　といひたるに

1315
のちまではおもひもかけずなりにけり,ただ時のま

をなぐさめしまぞ

　　　（女院の御まへに、秋の花うゑさせた）

　　　まふときく日ある人、まいりたまへりとききて
1317
いろいろのはなにこころやうつるらん,みやまがくれ

のまつもしらずて

　　　ひとのもとにいきたりけるをとこ、返にや
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つとめて
　　　あらむ。よりきたるにあはねば、わざと

　　　可太良婦人爾安比美弖乃知見所免盤

　　渡以悲太流爾

1315
能知万弖波於毛比毛可个春奈利仁計里,多々時乃万

遠那久佐免之満所

　　万不止支久日安留人、万以利太万部利止支々天
1317
以呂～乃盤那爾己々呂也宇徒留良无,美也万可久□

農万徒母之羅春天

　　飛止乃毛止仁以幾太利計留遠登古、返爾也
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　徒止女弖
　　安良无。夜利幾太流爾安波年盤、和佐登

歌番号は岩波文庫本和泉式部集による通し番号

　　いたうあばれたる所にて、女郎花につゆ
　　のおきたるをみて
1316
　女郎花露けきままにいとどしく、あれたる
　やどは風をこそまて

上は切取られた部分にあったと思われる歌と詞書だが、
一項分には行数が足りない。或は別に歌が在ったか。

個人蔵

歌４４と歌４５との間には継ぎ目があり。（歌1316と詞書が在ったものと考えられる）

□は「礼」か

7行目の「天」は或は「弖」か

8行目の詞書は1318の詞書。

「与」は「與」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。
「弖」は「天」とすることも。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ

　　　　　　　　　　　　　　現代語訳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　解釈　　　　　　　　　　　　　　解説及び使用字母へ

　　　もし親しい人とお会いした後に恋心を抱かないとしたなら
　　　何故と問いかけて来る人に

1315
「後迄は思ひも掛けず成りにけり、ただ時の間を慰めし間ぞ」
後のことまでは予期さへして無かった事に成りましたよ、ただほんの少しの間慰めているだけですよ。

　　　　　　　　　にはさき
　　　女院様の庭前に、秋の花をお植えなさると
　　　聞いた日、或る御方が参上されて来られると聞いたので、

1317
「色々の花に心や移るらん、深山隠れのまつも知らずて」
今頃色んな花々に気持ちが目移りしている事でしょうか、山奥の松でさへも知らないでしょうね。

　　　恋人の所に行っていた男性が返されたのであろうか。
　　　忍び寄って来た時に出くわさない様に、翌朝わざと

ずは；。もし…でないならば。打消しの順接の仮定条件っを表す。

1315
（後のことまでは予期さへしておりませんでしたよ、ただほんの少しの時間気を紛らわす為だけの間ですから。）との意。

とき　　ま
時の間；ほんの少しの間。僅かの時間。

1317
（今頃色んな花々に気持ちが目移りしている事でしょうか、奥の方で隠れる様にして待っている色変わりすることもない松でさへも知らないことでしょうね。）との意で、心変わりする事無く待っている人がいる事も知らないのでしょうねと詠んだ歌。

みやまがく
深山隠れ；山の奥深くに隠れている事。また、山奥のこと。

らん；今頃…ているだろう。目の前に無い現在の事態について推量する意を表す。

まつ；「松」と「待つ」との掛詞。

にょういん　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ほうがんだい　しゅてんだい
女院；天皇の母・お后・皇女に贈られた尊号。待遇は上皇と同じで、女院別当・判官代・主典代などを任命。女院の最初は991年（東三条院）。

にやあらむ；…であろうか。…たのか。断定の助動詞「なり」の連用形「に」に疑問の係助詞「や」更にラ変動詞「あり」の未然形「あら」に推量の助動詞「む」の連体形「む」。

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第十九紙（一葉）素色（しろいろ）青灰（薄浅葱色）	清書用　臨書用紙　白色（しろいろ）２５.０ｃｍｘ３６.４ｃｍ　　　　　　　　宝唐草解説及び使用字母へ継ぎ目より右側部分の料紙の色は実物は薄浅葱色。２０.６ｃｍｘ１５.７ｃｍ
続集下巻　乙類断簡１７　歌４４（1315）　歌４５（1317）　歌４６（131８の詞書のみ）。	（　）内の歌番号は、岩波文庫本和泉式部集による通し番号