和泉式部集切21　断簡模本『たねからに・・・』

和泉式部続集切（続集下巻）（６寸８分×４寸２分）　　　

染紙料紙が使われております。
料紙は漉目のない厚手の楮紙が使われている。
当然滲み止め加工はしてあり、薄浅葱色で染められた料紙に松林らしき柄が施されている。

　灰青色（薄浅葱色）　　

第二十一紙（一葉）

灰青色（薄浅葱色）

清書用　臨書用紙
　青灰色（薄浅葱色）

２５.０ｃｍｘ３６.４ｃｍ

　　　　　　　　獅子唐草

清書用　臨書用紙１枚で二葉分。

解説及び使用字母へ

文人松（松林）と思われる柄が摺られているが
写真ではあまり確認できない。

実物の柄は薄ﾍﾞｰｼﾞｭ色、仮に空摺りしたものであるとするなら、生成りの色（経年変化による薄茶）がﾍﾞｰｼﾞｭとして見えているもの。
但し染めであるならば有り得ないので、薄茶色で版刷したか手描きによるものとなる。

柄拡大へ

２０.６ｃｍｘ１２.８ｃｍ

続集下巻　乙類

断簡１９　歌４８（1326）・歌４９（1327）。

（　）内の歌番号は岩波文庫本和泉式部集による通し番号

解説　第二十一紙　（断簡１９）

　　　　　　　　　　　　かな　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　水色文字は　使用時母　　　　　　　　　解釈（現代語訳）へ

1326
　たねからにかくなりかけるうりなれば、その秋

　ぎりにたちもまじらじ

　　　あか月にとりのなくをききていづる人に

1327　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（か）
　いつしかとききける人にひとこゑも、ききする

　とりのねこそつらけれ

　　　よべあめのいたうふりしかば、えいかずな

　　　りにしと、いひたるに

1326
　太禰可良仁可久那利可个留宇利奈連波、曾乃秋
　　　二
　幾利太遅毛末新羅之

　　　安可月爾渡利乃奈久越幾々天以徒留人爾

1327　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（可）
　伊川之可止幾々遣類人爾悲止己衛毛、幾々須流

　東利乃子己所徒良个礼

　　　与遍阿免乃意多宇不利之可波、盈以可春那

　　　利仁之止、以日太流耳

歌番号は岩波文庫本和泉式部集による通し番号

よべ；昨夜

えいかずなりにし；行かないこととなるものを

歌1327の下の句「ききするとりの」の黄文字は踊り字としたが、
或は「可」とすべきか。この部分に虫食い痕の様なものが在り文字が
はっきりとは読み取れない。

「个」は「介」とすることもあり。
「爾」は「尓」とすることもあり。
「礼」は「禮」とすることもあり。
「与」は「與」とすることもあり。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ

　　　　　　　　　　　　　　現代語訳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　解釈　　　　　　　　　　　　　　解説及び使用字母へ

1326
「種からに斯くなりかける瓜なれば、その秋霧に立ちも交じらじ」
種からこの様に成り始めて行く瓜であるので、その秋には霧が立ち込める様に霞んでしまうことも無いでしょう。

　　　夜明け前に鳥の鳴くのを聞いて出て行った人に

1327
「何時しかと聞きける人に一声も、聞かする鳥の音こそ辛けれ」
何時ごろだろうかと聞いていた人にただの一声でも、聞かせる鶏の鳴き声こそは辛いものですよ。

　　　昨夜雨が随分と降っていたので、出かける事が出来なく
　　　なってしまったと、言っているので

1326
（あの小さな種からこの様に成果ある物に成り始めて行く瓜であるので、その年の秋の園には立派な実を着けて秋桐の中に紛れて霧が立ち込める様に霞んでしまうことも無いでしょう。）との意。

その；「其の」と「園」との掛詞。
　　　　　あききり　　　あきぎり
あききり；「秋霧」と「秋桐」との掛詞。

じ；…ないだろう。助動詞特殊型の終止形。活用語の未然形に付き打消しの推量を表す。

1327
（思いがけなく早くも鳥の声を聞いていた人にせめて一言だけでも別れの挨拶をと思いながら、一声だけでもあの人に聞かせる夜明けを告げる鶏の鳴き声だけは早くもお別れと思うと耐えがたいものですよ。）との意。

　よべ
昨夜；ゆうべ。昨日の晩。
いた
甚う；はなはだしく。非常に。ひどく。形容詞「甚し」の連用形「甚く」のウ音便からなる語で副詞。

その；「其の」と「園（野菜畑）」との掛詞。園=野菜・果物・草花などを植える為のひと囲の土地。

あきぎり　　　　　　
秋霧；古くは春秋共に霞とも霧とも云ったが、平安時代以降春立つのを霞、秋立つのを霧と呼んた。

あきぎり
秋桐；シソ科の多年草で茎が角ばっており、長けは３０ｃｍ～５０ｃｍで広い三角状の葉を対生する。秋には茎頂に紅紫色の唇形花を総状花序に付ける。本州中部～近畿地方の日本海側の山地に自生し、これによく似た黄花秋桐が日本各地の山野地に自生する。

あかつき　　　　　　　　　　　あけぼの
暁；夜明け前。未明。「曙」よりもやや早い時刻に云う。

え行かず；行く事が出来ない。行けない。後に打消しの表現を伴った「え…ず」の形で、不可能の意を表す。

なりにし；…成っててしまった。自動詞「成る」の連用形「なり」と完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」に過去の助動詞「き」の連体形「し」の付いたもの。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ページ

いずみしきぶ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おほえのまさむね　　　いずみのかみ　　　たちばなのみちさだ　　　　　　こしきぶのないし　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　じょうとうもんいんしょうし
和泉式部；平安時代中期の女流歌人で、大江雅致の娘。和泉守である橘道貞の妻となって小式部内侍を生み、後に一条天皇の中宮である上東門院彰子に仕えた。為尊親王やその弟の敦道親王との激しい恋、更には藤原保昌との再婚など恋多き女性であり、恋愛経験の豊富さを生かして情熱的な歌を数多く詠んでいる。家集である「和泉式部集」の他に「和泉式部日記も手掛けている。」

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