和泉式部集切23　断簡模本『あはれとも・・・』

和泉式部続集切（続集下巻）（６寸８分×４寸３分）　　　

染紙料紙が使われております。
料紙は右半葉は漉目の見える厚手の萱楮紙が使われている。左半葉は漉目のない楮紙で、
二か所の継ぎ目が在り、元三葉の一部が切取られて、一葉に仕立てられたもの。
当然滲み止め加工はしてあり、薄浅葱色で染められた料紙。

　灰青色（薄浅葱色）　　

第二十三紙（一葉）灰青色（薄浅葱色）	清書用　臨書用紙　青灰色（薄浅葱色）２５.０ｃｍｘ３６.４ｃｍ　　　　　　　　獅子唐草清書用　臨書用紙１枚で二葉分。解説及び使用字母へ２０.６ｃｍｘ１３.０ｃｍ
続集下巻　乙類断簡２１　歌５３（1347）・歌５４（1349下の句欠損）　　　　　　　　　　　　　　歌５５（1369下の句のみ）。	（　）内の歌番号は岩波文庫本和泉式部集による通し番号

解説　第二十三紙　（断簡２１）

　　　　　　　　　　　　かな　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　水色文字は使用時母　　　　　　　　　解釈（現代語訳）へ

　　　かたたがへにいきて夜ぶか

　　　きあか月にいづとて

1347
　あはれともいはまし物を人のせし、

　あか月おきはくるしかりけり

　　　をむなともだちの二三人ものがたり

　　　するをよそにみやりて

1349　
　かたらへばなぐさみぬ覧人しれず、

　（わが思ことをたれにいはまし）

1369
　そをぬれぎぬとひともみるべく

　　　閑堂々加部爾以幾弖夜不可

　　　幾安可月爾以川止轉

1347
　安八礼止无以盤万之物乎人乃世之、

　阿可月於支盤久流志可利計里

　　　遠武那止无多知乃二三人毛乃可多利

　　　春流乎与所仁美也利弖

1349
　閑多羅部盤那久佐見奴覧人之禮春、

1369
　曾遠奴連支奴止悲止无美留部倶

歌番号は岩波文庫本和泉式部集による通し番号

1369上の句
　ふかからば涙もすすげなみだ川

東京国立博物館蔵

歌1349の下の句（黄文字）は欠落。
ここにある下の句は1369の下の句を継足したもの。
実際の下の句は断簡２５（救世熱海美術館蔵）に有。
（和可思己止乎　多礼耳以盤万之）

「爾」は「尓」とすることもあり。
「弖」は「天」とすることもあり。
「与」は「與」とすることもあり。
「禮」は「礼」とすることもあり。

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　　　　　　　　　　　　　　現代語訳　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　解釈　　　　　　　　　　　　　　解説及び使用字母へ

　　　方角を変えて出かけ、夜更けに
　　　夜明け前には出発しようという事で

1347
「憐れともいはまし物を人のせし、暁起きは苦しかりけり」
気の毒だと言えば良かったのに人のすると謂う、夜明け前の早起きは苦しいことだったのだなあ。

　　　ご婦人連中が二三人でお喋りを
　　　しているのを他人事のように流して、

1349
「語らへば慰みぬらん人知れず、我が思ふ事を誰に言はまし」
お喋りをすれば慰めにもなるでしょう、人に知られる事も無く自分の思っている事を誰に言いましょうに。

1369
「深からば涙も濯げ涙川、其を濡れ衣と人も見るべく」
深いのであれば涙さへもすすいでほしい涙川よ、其れこそ濡れ衣であると人も思う様に。

夜深き；夜が未だ深く、夜明けまでにはまだかなり時間がある。

1347
（辛い事ですよと言ってくれれば良かったのに普通に俗人のすると云う所謂早起きですが、夜明け前に寝覚る事は苦しいことだったのだなあ。）との意。

物を；…のに。ここでは逆接の確定条件を表す。
暁起き；夜明け前に早起きして勤行すること。

みや
見遣り；遠くを望み見る。チラリと目を向ける。「見遣る」の連用形

1349
（お喋りをすれば慰めにもなるでしょう、けれども人に知られ無いようにしてひた隠しにしているのに、自分の思っている事を誰に言ったならば良いのでしょうか。）との意。

1369
（もし深いのであれば涙さへも洗い流して欲しい涙川ですことよ、其れこそ根も葉もない噂であると他の人達も思うに違いない程にね。）との意。

ぬれ　　ぎぬ
濡れ衣；根も葉もない浮名や噂。無実の罪。

かたたが
方違え；平安時代から鎌倉時代にかけて行われていた呪術的な方法で、陰陽道の俗信の類の或る種の儀式のようなもの。何処かへ出かける際、目的地の方角がその年の金神の座位で遇ったり、天一神が廻っている方角に当たったりして日が悪い時に一旦別の方角へ出て行き（吉方）、知人の家や神社・仏閣などに寄ったりして一夜を明かしたりなどした後に目的地へ向かう事。方塞、方忌などとも。

あかつき　　　　　　　　　　　あけぼの
暁；夜明け前。未明。「曙」よりもやや早い時刻に云う。

この時代の男は未だ夜の明けきらぬ「あかとき（暁）」の内に女の家を出て、夜がほのぼのと明ける「あけぼの（曙）」になる前に家路につく。曙に成って人目に付くのを嫌うからのことである。時代が下るとさらに細分化して、別れ時の曙を境に暁に近い辺りを「しののめ（東雲）」、「あした（朝）」に近い辺りを「あさぼらけ（朝朗け）」と呼んで使い分けていた。

こんじん
金神；陰陽道で祭る方位の神で、戦乱・日照り・流行り病・死等を司る。この神がいる方向に向かって土木工事・外出・移転・嫁取り等をすることは忌み嫌われていた。干支や季節で居場所が変わり、方角は暦の注記や巫女に見てもらって知ると云われた。これを怠り無視して実行すると金神七殺といって、家族七人が殺されると恐れられていた。

なかがみ　　
天一神；陰陽道で祭る神。天地八方を六十日を周期として運行し、人の吉凶禍福を司る。災いの起らぬよう方角の悪い方を塞いで、それを守ると云われている。癸巳の日から十六日間天上にいる間は何事も無いが、己酉の日から四十四日間地上にいる間は東西南北をさらに細分して数日ごとに位置を変え、その通路に当たる位置にいるものには祟りをすると言われていた。このため、やむを得ずその方向に行く必要のある時には「片違え」をしたのである。

言はまし；言ったら良かった。言えば良かったのに。動詞「言ふ」の未然形「言は」に特殊型助動詞「まし」の連用形「まし」が付いたもの。「まし」を単独で用いて、仮定の条件を含ませた形での仮想の意を表す。

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第二十三紙（一葉）灰青色（薄浅葱色）	清書用　臨書用紙　青灰色（薄浅葱色）２５.０ｃｍｘ３６.４ｃｍ　　　　　　　　獅子唐草清書用　臨書用紙１枚で二葉分。解説及び使用字母へ２０.６ｃｍｘ１３.０ｃｍ
続集下巻　乙類断簡２１　歌５３（1347）・歌５４（1349下の句欠損）　　　　　　　　　　　　　　歌５５（1369下の句のみ）。	（　）内の歌番号は岩波文庫本和泉式部集による通し番号