清書用 古筆臨書用紙 関戸本古今集(昭和初期模写本)
価格 46,860円(50枚入り)
お問合わせは TEL(086‐943‐8727)、又はにて
名古屋に暮らす関戸家に伝えられていた古今和歌集の零本から、この名を関せられしものです。
元々古今和歌集は巻第一から巻第十の一帖(上冊)と、巻第十一から巻第二十の一帖(下冊)から成っていたので、関戸本もそうであったと思われるのですが、当時存在していたのは巻第一、巻第三、巻第四、巻第十一、巻第十二、巻第十四、巻第十五、そして巻第二十の八巻合せて四十八丁が残るのみでした。即ち項にして表裏合せて九十六項、歌二百八首の書写が残されておりました。
料紙は雁皮製の両面加工の物を使用し、同じ色の濃色2枚・淡色2枚を重ねて、4枚一組とし中央で縦向きに谷折として束を作り、その束を幾つか重ねて糸で綴った綴葉装の冊子です。
即ち、濃・濃・淡・淡・淡・淡・濃・濃と項を捲るごとに同系色のグラデーションが並びます。料紙は其々表裏を使用しますので、この一束で都合16項(ページ)分となります。
昭和初期の書写本です。
現在は分断され所在不明の項が主です(昭和27年に割譲散逸されたもの)。
解説中の歌番号は元永古今集での通し番号です。
21項濃紫 20項濃紫 | 11項淡緑 10項淡緑 | 9項淡緑 8項淡緑 | 7項淡緑 6項濃緑 | 5項濃緑 4項濃緑 | 3項濃緑 2項薄茶 |
39項淡茶 38項濃茶 | 35項濃茶 34項濃紫 | 33項茶紫 32項茶紫 | 31項濃紫 30項淡紫 | 29項淡紫 28項淡紫 | 25項淡紫 24項淡紫 |
55項淡緑 54項濃緑 | 49項濃茶 48項濃茶 | 47項濃茶 46項淡茶 | 45項淡茶 44項淡茶 | 43項淡茶 42項淡茶 | 41項淡茶 40項淡茶 |
95項淡緑 94項淡緑 | 93項淡緑 92項淡緑 | 91項淡緑 90項濃緑 | 89項濃緑 88項濃緑 | 87項濃緑 86項濃茶 | 83項黄土 82項黄土 |
57項(淡緑) 56項(濃緑) |
清書用 濃緑 本文解説 使用字母へ |
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へいぜい 奈良の帝;平城天皇 嵯峨天皇の平安京に対して平城京に居を構えた事による。 折て見ば; 折り取ってしまうと。 とをを 橈;たわむ様。たわわ。 をの 小野の;野原の 萩の花の散っている野原 露霜;露寒のころの霜混じりの露。 |
現代語訳 |
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この歌は或る御方が仰るには、 奈良の帝のお作りになられた歌であると云う事である 224 「折りてみば落ちぞ死ぬべき秋萩の、枝も撓に置ける白露」 折取ってみればきっと落ちて死んでしまうかも知れない、秋萩の枝も撓んでしまう程に白露が置かれているよ。 225 「萩の花散るらむ小野の露霜に、触れてを行かむ小夜は更くとも」 萩の花も散って終うであろう小野の露霜に、触れてでも行くとしよう夜が更けてしまっても。 是貞の家の歌合せに詠んだ歌 文屋朝康 226 「秋の野に置く白露は玉なれや、貫き掛くる蜘蛛の糸筋」 秋の野に置いている白露は玉なのだろうか、蜘蛛の糸が貫き通して緒に掛けているよ。 |
ならのみかど 奈良帝;平城天皇 224 (馬から降りて見ればいいものを、そのまま折取ろうとすればきっと落ちて死んでしまうかも知れない、秋萩の枝も撓んでしまう程、花穂を地面近くまで垂らし項垂れる様にして白露が置かれているよ。)との意。 べき;きっと…だろう。あることが起ることを予想する。確実な推測を表す。 225 (萩の花も散って終うであろう程の野原の冷たい霜交じりの露に、例え濡れる事に成ってでもこの野原を通り過ぎて行くとしよう、真夜中になったとしても。)との意で、自分自身の涙が散り落ちるのを重て詠んだ歌。 226 (秋の野に降りている白露は玉なのだろうか、蜘蛛の糸が筋の様に露を貫き通して玉の緒として掛けているよ。)との意で、蜘蛛の糸に点々と幾つも連なって輝く露珠が目に浮かぶ。 |
ふんやのあさあやす 文屋朝康;文屋康秀の子で平安前期の歌人と思われるが、古今集に入るのはこの1首のみ。官位は従六位下。 後撰集に2首入るがやはり露の歌ともう1首は海の底の紅葉の歌で、感受性の強い御仁。 そうじょうへんじょう 僧正遍照;経なん時代初期の僧であり歌人。六歌仙・三十六歌仙の一人で、桓武天皇の皇子大納言安世の子。俗名は良峯宗貞と云い、仁明天皇の寵を受けて蔵人頭となったが、天皇の崩御後に出家して、円仁・円珍に天台宗を学び京都に元慶寺を開いて僧正となる。流暢な歌を詠み、惟喬親王小野小町との贈答歌は有名。勅撰集に35首が入集する。生年816〜没年890。 ページのトップへ |
臨書用紙には、艶のある濃緑の染紙が12枚、淡緑の染紙が9枚入れてあります。
通常一束分で両面加工の料紙、濃緑2枚・淡緑2枚です。片面加工の臨書用紙ですと都合8枚必要となります。(濃緑4枚・淡緑4枚)
昭和初期模写本 関戸本古今集(所在不明の断簡部分、但し右項の半分右側2行は在り)
29項(淡紫) 28項(淡紫) |
清書用 淡紫 本文解説 使用字母へ |
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関戸古今 28項(淡紫;1枚目裏面) 29項(淡紫;2枚目表面) ページのトップへ |
黄文字は前項に在り かたへ 片方;かたほう。一方。 かもがはら 賀茂河原;賀茂の河原 せうよう 逍遥;あちこちらをぶらぶらと歩くこと。 俗世間の外に心を遊ばせること。 |
現代語訳 |
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170 「夏と秋と行き交う空の通い路は、片方涼しき風や吹くらむ」 夏と秋とが行き来する空の道では、片方へ涼しい風が吹いているのだろうか。 第四巻 秋の歌、上 藤原敏行朝臣 171 「秋来ぬと目には清かに見えねども、風の音にぞ驚かれぬる」 秋が来たなと目にはっきり見える訳では無いが、風の音で驚かされてしまいましたよ。 立秋の日に殿上人たちが賀茂の河原で 逍遥していた友人に共に参上して詠んだ歌 |
170 (夏と秋とが行き来する空の道では、秋へと向かう一方向へだけ涼しい風が吹いているのだろうか。)との意。 らむ;…のだろう。現在の事柄に関し確かかどうか、どうしてか等の疑念を持って推量する意を表す。 171 (秋が来たなと、はっきり目にする事が出来る訳では無いが、ああ秋が来たんだなと風の音の違いでハッと気づかされてしまいましたよ。)との意で、秋の訪れをしみじみと詠んだ歌。 立秋の日に宮中の男性方達と賀茂川の河辺で ぶらぶらと談笑しながら散歩していた友人に加わって詠んだ歌 |
ふぢはらのとしゆき 藤原敏行;平安初期の歌人で、三十六歌仙の一人。三十人撰にも登場するが知られている歌は全て合わせても28首と少ない。詳細は不詳であるが、古今集中には敏行朝臣と出ていることから、おそらく四位であったろうと推察される。生没年不詳。 ページのトップへ |
実際の帖ではこの並びが右からの捲りとなります。
ハクビ製臨書用紙は表面加工のみ(片面加工)で、
濃淡合わせて、五色八種類50枚入りが実際の清書用臨書用紙となります。
昭和初期模写本 関戸本古今集(所在不明の断簡部分)
31項(濃紫) 30項(淡紫) |
清書用 淡紫 濃紫 本文解説 使用字母へ |
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関戸古今 30項(淡紫;2枚目裏面) 31項(濃紫;1枚目表面) ページのトップへ |
吹き返し;風が衣の裾を裏返して。 うらめ 心愛づ;心の中で愛でる 初風;季節の初めに吹く風。 きのふ 昨;過ぎ去った日 早苗取り;苗代田から田植えの為に早苗を採ること。 稲葉;稲の葉 ひさかた 久方の;枕詞。天に掛る。他、天に関わる物等にも掛かる。 かぢ 楫;舟をこぐ道具 |
現代語訳 |
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紀貫之 172 「川風の涼しくもあるか打ち寄する、波と共にや秋は立つらむ」 川風が少し冷ややかであるかなあ、打ち寄せる波と共に秋はやって来るのだろうか。 お題不明 詠み人不明 173 「我が背子が衣の裾を吹き返し、内珍しき秋の初風」 私の夫の着物の裾を翻して吹く風が、心に新鮮に感じる秋の初風でありますことよ。 174 「昨日こそ早苗取りしか何時の間に、稲葉もそよと秋風の吹く」 昨日のことの様に早苗を取っていたはずが、何時の間にか稲葉もそよそよと秋風が吹いておりますよ。 175 「秋風の吹きにし日より久方の、天の川波立たぬ日は無し」 秋風が吹き始めた日から、天の川波の立たない日は無い。 176 「久方の天の河原の渡し守、君渡りなば楫隠してよ」 天の川の河原にある渡し船の船頭よ、あの御方が渡ったならば梶を隠してくださいな。 |
172 (川を吹き渡ってくる風が少し冷ややかに感じるかなあ、寄せて来る波の様にやがて秋がやって来るのだろうか。)との意で、肌で感じる風の気配にハッとして秋の訪れを詠んだ歌。 らむ;…のだろう。現在の事柄に関し確かかどうか、どうしてか等の疑念を持って推量する意を表す。 173 (夫の着物の裾をひらりと翻し、美しい衣の裏を見せる様にして吹く風が、少し火照った心に新鮮に感じる初秋の涼風でありますことよ。)との意で、季節の初めに吹く風が一寸したご褒美を運んできたと詠んだ歌。 うら うら;心の「内」と衣の「裏」との掛詞。 174 (昨日のことの様に苗代から早苗を取っていたと思っていたのに、何時の間にか稲の葉も成長してそよそよと音を立てるばかりに秋風が吹いておりますよ。)との意で、もう秋が来たのだなあと詠んだ歌。 175 (秋風が吹き始めた日=立秋の日から空気が澄むようになって、銀砂子を鏤めた様にキラキラ輝いて天の川の川波の立たない日は無い程、美しく見える事よ。)との意で、波で煌めく川面に喩えて詠んだ歌。 にし;…してしまった。完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」に過去の助動詞「き」の連体形「し」の付いたもの。 176 (天の川の河原にある渡し船の船頭よ、愛しいあのお方が渡って来たならばお願いですからその舟を漕ぎ進める櫓をを隠してくださいな。)との意で、愛しい人が帰れぬようにと願って読んだ歌。 |
きのつらゆき 紀貫之;平安時代前期の歌人で歌学者でもあり、三十六歌仙の一人でもある。歌風は理知的で修辞技巧を駆使した、繊細優美な古今調を代表している。醍醐・朱雀両天皇に仕え、御書所預から土佐守を経て従四位下木工権頭に至る。紀友則らと共に古今和歌集を撰進する。家集に「貫之集」の他、「古今和歌集仮名序」、「大堰川行幸和歌序」、「土佐日記」、「新撰和歌(撰)」などがある。生年868年〜没年945年頃。 立秋;二十四節気の一つ。秋の初め。今の8月7・8日ごろで、陰暦の七夕祭りの頃。夏至と秋分の日のちょうど中間にあたる。とはいえ現在の気候ではまだまだ暑い日が続くが、この日を境に晴れた日は夜空は澄み渡るとされている。 ページのトップへ |
臨書用紙には、艶のある濃紫の染紙が4枚、淡紫の染紙が4枚入れてあります。
通常一束分で両面加工の料紙、濃紫2枚・淡紫2枚です。片面加工の臨書用紙ですと都合8枚必要となります。(濃紫4枚・淡紫4枚)
昭和初期模写本 関戸本古今集(右項は所在不明の断簡部分)
35項(濃茶) 34項(濃紫) |
清書用 濃紫 濃茶 本文解説 使用字母へ |
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関戸古今 34項(濃紫;2枚目裏面) 35項(濃茶;2枚目裏面) 右項は第二折、左項は第三折になる。 ページのトップへ |
凡河内躬恒; 宇多・醍醐天皇に仕え、古今和歌集選者の一人。 ぬ 寝る; 打ち延へて;引き続いて。幾久しく。 年の緒;年が永く続くことを緒に例えていう言葉。 黄文字は写真では確認できない文字 □は不明文字部分 |
現代語訳 |
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七日の夜に詠んだ歌 凡河内躬恒 181 「年毎に逢うとはすれど七夕の、寝る夜の数ぞ少なかりける」 毎年逢えるのだけれど、七夕の寝る夜の数は随分と少ない事であるなあ。 182 「七夕にかしつる糸の打ち這へて、年の緒長く恋や渡らむ」 織女に預けておいた糸がずっと何時までも続いて、一年を長く感じて恋い慕い続ける事としましょう。 お題不明 素性法師 183 「今宵来む人には会はじ七夕の、久しき程に待ちもこそすれ」 今夜来る人には会わないこととしよう、七夕は長い間でも待っているのだから。 七日の夜の明け方に詠んだ歌 源宗干 174 「いまはとて別るる時は天の川、渡らぬ先に袖ぞ漬ぢぬる」 今はまだと言って別れる時には、天の川を未だ渡ってもいないのに早くも袖が濡れておりますよ。 |
172 (毎年決まって逢えるのではあるが、七夕だけとは二人で寝られる夜の数は随分と少ない事であるなあ。)との意。 かりける;…たなあ。…たのだ。今まで考えもしなかったことについて、ハッと気が付いて述べるする意を表す。形容詞が助動詞に接続する為に発生したカリ活用の活用語尾「かり」に係助詞「ぞ」を受けての助動詞「けり」の連体形「ける」 182 (機を織る女子に預けておいた糸がずっと何時までも続いている様に、長〜い紐みたいに一年を長く感じて恋い慕い続ける事としましょう。)との意。 或は (七夕祭に竹に吊るしてある歌詞の糸がずっと何処までも続いている様に、一年を長く感じて恋い慕い続ける事としましょう。)との意。 183 (今夜来るであろう人には会わないことにする心算ですよ、だって二人が逢える7月7日は年に一度という長い間でさへも待っているのだから。)との意で、一寸の間ぐらいは却って良薬と詠んだ歌。 もこそすれ;…だってするのだから。強調逆接の意を表す。 174 (今はまだ離れたくないと言って別れる時には、天の川を未だ渡ってもいないのに早くも袖が濡れておりますよ。)との意で、未だ川水に浸かっていないのに涙に濡れる袖に別れの辛さを詠んだ歌。 或は (死に際であって別れなけれならない時には、天国までの三途の川を未だ渡ってもいないのに、どうしようもなく袖が濡れてしまうものですよ。)との意とも取れる。 |
おおしこうちのみつね うだ・だいごりょうてんのう みぶのただみね 凡河内躬恒;平安前期の歌人で、三十六歌仙の一人。宇多・醍醐両天皇に仕え、紀貫之・壬生忠岑・紀友則らと共に古今和歌集撰者の一人。卑官ながら歌歴は華々しく即興での叙景歌の吟詠に長けていたとされ、家集に躬恒集があり、古今集以下の勅撰集にも194首入集している。官位は従五位、淡路権掾。生没年未詳(860年前後〜920年代半頃)。 たなばた 棚機;7月7日、川辺に棚を設け、機で織った布を身につけて川に入る禊を当時の女性が行っていたからとも云われている。又、「棚機つ女」「織女」の略の場合も。 そせいほうし へんじょう よしみねのはるとし よしよりのあそん 素性法師;遍照の子、俗名は良峯玄利と云い、出家して雲林院に住み歌僧となる。またの名を良因朝臣とも云う。三十六歌仙の一人で、剃髪前は清和天皇に仕えていた。歌風は軽妙で力強いものがある。家集に素性集が有る。生没年不詳。 みなもとのむねゆき 源宗干;平安時代中期の貴族で歌人でもあり、三十六歌仙の一人。光孝天皇の皇子であった式部卿是忠親王の子。寛平の御時后宮歌合や是忠親王家歌合などにも参加しており、紀貫之や伊勢らとの贈答歌もある。家集に40首を収めた宗干集がある。官位は右京大夫で正四位下。 ページのトップへ |
臨書用紙には、艶のある濃茶の染紙が4枚、黄土の染紙が4枚入れてありますります。
一束分で両面加工の料紙、濃茶(又は黄土)2枚・淡茶2枚です。片面加工の臨書用紙ですと都合8枚必要となります。(濃茶4枚・淡茶4枚)
39項(淡茶) 38項(濃茶) |
清書用 濃茶 淡茶 本文解説 使用字母へ |
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関戸古今 38項(濃茶;1枚目表面) 39項(淡茶;2枚目裏面) 右項・左項共に第三折になる。 ページのトップへ |
大江千里;平安初期の歌人。宇多天皇の勅命で句題和歌を奉った。 ちぢ 千々;無秩序に数の多いさま。いろいろ。 別かねど;識別できないけれど。 かむなりのつぼ 雷鳴壺;襲芳舎の別名。平安京内裏の一つ。後宮の局で、右大臣の宿所ともなった処。雷が落ちて焼け残った木があったことに因る名。 斯く許り;これほどまでも。 いたづら 徒に;意味もなく。 黄文字は次項に在り |
現代語訳 |
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是貞の親王の家の歌合せの歌 大江千里 190 「月見れば千々に物こそ悲しけれ、我が身一つの秋にはあらねど」 月を見ているとあれやこれやと物悲しい気持ちになることよ、私独りの為の秋では無いのだけれど。 詠み人不明 191 「何時はとは時は分かねど秋の夜ぞ、物思ふことの限りなりける」 何時になるかと時を分かつ訳ではないが、秋の夜こそ物思いに耽る事の極であったことよ。 かみなりのつぼ しゅうほうしゃ 雷鳴壺=襲芳舎に人々が集まって 秋の夜を惜しむ歌を詠んでいた序でに詠んだ歌 凡河内躬恒 192 「斯くばかり惜しみする夜を徒に、寝て明かすらん人さへぞ憂き」 こんなにも惜しまれる夜をすることもなく、ただ手持無沙汰で、今頃寝て明かしているだろう人ほど気にくわないものですよ。 |
190 (ぼんやりと月を眺めているとあれやこれやと物悲しい気持ちになるなあ。でもこんなにも、あれこれと悲しくて仕方が無いのはどうしてだろうか、秋が私一人の為だけに訪れて、その悲しみを私独りで引き受けた秋では無いのだけれど。)との意。 らむ;…のだろう。現在の事柄に関し確かかどうか、どうしてか等の疑念を持って推量する意を表す。 191 (何時は物を思い、何時は物を思わないなどと時節を分別できる訳ではないが、秋の夜となると、ぼんやりと思い悩む事の多い限界ギリギリであったなあ。)との意。 192 (これ程までに夜が明けるのが惜しいと思われる月の素晴らしい夜であるのに、何もすることがなく歌さへ詠まずに寝ている人はもちろん今頃、寝ないで無為に夜を明かしているだろう人ほど気にくわないものですよ。)との意で、名月に観賞しない人を皮肉って詠んだ歌。 らん;今ごろ…しているだろう。目の前に無い現在の事実について推量する意を表す。助動詞「らむ」の音便。 |
おおえのちさと 大江千里;平安時代前期の歌人で儒学者でもあり、中古三十六歌仙の一人でもある。大江音人の子で、官位は散位従六位、903年には兵部大丞となった、古今和あ家集に10首入集し、歌風は理知的で修辞技巧を駆使した、繊細優美な古今調を代表している。著作に五言七言の漢詩句の翻案を中心とした「句題和歌」がある。生没年不詳。 しゅうほうしゃ うめつぼ ぎょうかしゃ つぼね 襲芳舎;平安京内裏の五舎の一つ。内裏の北西の隅で梅壺・凝花舎の北にあった後宮の局で、渡り廊下で繋がれていた。時には右大将の止宿所ともなった。庭に落雷した木が植わっていたことから雷鳴壺とも呼ばれていた。 おおしこうちのみつね うだ・だいごりょうてんのう みぶのただみね 凡河内躬恒;平安前期の歌人で、三十六歌仙の一人。宇多・醍醐両天皇に仕え、紀貫之・壬生忠岑・紀友則らと共に古今和歌集撰者の一人。卑官ながら歌歴は華々しく即興での叙景歌の吟詠に長けていたとされ、家集に躬恒集があり、古今集以下の勅撰集にも194首入集している。官位は従五位、淡路権掾。生没年未詳(860年前後〜920年代半頃)。 ページのトップへ |
臨書用紙には、艶のある淡茶の染紙が12枚、濃茶が4枚、黄土が4枚入れてあります。
茶系には黄土も含めており、一折に黄土・淡茶の部分が存在する為です。
41項(淡茶) 40項(淡茶) |
清書用 濃茶 淡茶 本文解説 使用字母へ |
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かな 使用字母 解釈(現代語訳)へ
関戸古今 40項(淡茶;2枚目表面) 41項(淡茶;1枚目裏面) 右項・左項共に第三折になる。 ページのトップへ |
打ち交し;互いに交差して。 ふ 深けぬらし;夜は深くなっている。 「ぬ」は自然発生的完了の助動詞。 「らし」は間違いなく起こると推量できる助動詞。 見ゆ;自然に目に入る。動詞に自発の助動詞「ゆ」の付いたもの。 つき かつら 月の桂;月の中に生えていると云われる背の高い想像上の桂の木。 |
現代語訳 |
解釈 使用字母へ |
お題不明 詠み人不明 193 「白雲に羽打ち交はし飛ぶ雁の、影さへ見ゆる秋の夜の月」 白雲のある所を羽を重ねる様にして飛んで行く雁の、その姿までが見える程の秋の夜の月ですよ。 194 「小夜中と夜は更けぬらし雁が音の、聞こゆる空に月渡る見ゆ」 もう真夜中であるなあ、夜が更けてしまったらしい、雁の鳴声が聞こえて来る空に月の渡るのが見えるよ。 壬生忠岑 195 「久方の月の桂も秋は尚、紅葉すればや照り勝るらむ」 月に生えているという桂の木も秋にはやはり、紅葉するということで一層照り輝くのでしょうか。 在原元方 196 「秋の夜の月の光し赤ければ、暗部の山も越ぬべらなり」 秋の夜の月の光が特に明るいので、暗部の山も越えられるに違いない。 人の処に参上した夜にきりぎりすが鳴いていたので |
193 (白雲の浮かんでいる遥か高い所を翼を連ねる様にして並んで飛んで行く雁の、その姿までが見える程の明るい秋の夜の月だことですよ。)との意。 打ち交はし;互いに重ね合わせる。前の名詞の物が互いに交差する様子を表す。「打ち交はす」の連用形。 194 (もう真夜中であるなあ、どうやら夜も更けてしまったらしい、雁の鳴声が聞こえて来る方の空を見やると月がもうあんな所まで移動して西の空に傾いているのが見えるよ。)との意。 195 (月に生えているという桂の木も秋にはやはり同じ様に紅葉するということで、この時期になると一層照り輝いて見えるのでしょうか。)との意で、中国の伝説を引合いに名月を詠んだ歌。 ひさかた 久方の;枕詞。「月」に掛る。 らむ;と云う訳で…しているのだろう。動作の行われる原因・理由を基に推量する意を表す助動詞。 196 (秋の夜の月の光が煌々として特に明るいので、この分なら薄暗い事で有名な鞍馬山もきっと超えられるに違いないでしょう。)との意。 赤い;明るい。「明るい」の感覚が「赤色」の感覚を生んだとされ、本来は同じ語源であったとされる。 べらなり;…ようだ。…に違いない。当然の意の推量の助動詞「べし」の語幹「べ」に接尾語「ら」が付き形容動詞型の語尾「なり」の付いた形。 |
みぶのただみね 壬生忠岑;平安時代前期の歌人で、三十六歌仙の一人。下級官吏でありながらも和歌に優れ、師である紀貫之らと共に古今和歌集を撰した。温和で澄明な叙景歌が多い事で知られ、古今集以下の勅撰集に81首が入集する。歌論書に和歌体十種(忠岑十体)、家集に忠岑集が有る。生没年不詳。 月の桂;中国古代の伝説で、月に生えているという高さ五百丈(約1500m)もの大きさの想像上の桂の木。又、これより転じて「桂」だけでも月の意を表す語として和歌に詠まれる。通常の桂はカツラ科の落葉高木で、灰色を帯びた樹皮を持つ高さ約30メートル程の樹木。雌雄異株で、春先に葉に先立って暗紫紅色の小花を付ける。花後に出る葉は可愛らしい心臓形。果実は円柱形で、勾玉の様に湾曲した面白い形をする。木材は腐朽し難く船材や建築用・器具用などに用いる。 ありわらののとかた ちくぜんのかみ ありわらのむねはり みまさかのかみ 在原元方;平安前期の歌人で、中古三十六歌仙の一人。筑前守在原棟梁の子で、業平の孫にあたり、美作守を務め官位は正五位下。古今和家集に14首、後撰和歌集に8首、拾遺和歌集に2首。生没年未詳。 ページのトップへ |
臨書用紙には、艶のある淡茶の染紙が12枚入れてあります。
昭和初期模写本 関戸本古今集(左項は個人蔵、右項は所在不明の断簡部分)
45項(淡茶) 44項(淡茶) |
清書用 濃茶 淡茶 本文解説 使用字母へ |
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関戸古今 44項(淡茶;1枚目表面) 45項(淡茶;2枚目裏面) 右項・左項共に第三折になる。 ページのトップへ |
にや;・・・でしょうか。 断定の助動詞に疑問の係助詞の付いたもの。 どやからまし; 大声で騒がしい様子はずっと続くのでしょうね。 或は「宿屋借らまし」 松虫;この時代では鈴虫のこと。寂しい身の喩に使う。 訪ふ;機嫌をうかがう。 並べに;一様に なへに;と共に。・・・につれて と おとず 訪ふ;訪れる。訪ねてくる。 |
現代語訳 |
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202 「秋の野に道も惑ひぬ松虫の、声する方にやどやからまし」 秋の野で道にも迷ってしまいましたよ、松虫の鳴声のする方に宿を借りたら良かったのでしょうか。 203 「秋の野に人待虫の音すなり、我がと行きていざ訪はむ」 秋の野原に人を待つという松虫の鳴く声がするようですよ、この私が待たれているのでしょうかと行って、さあ確かめてみましょう。 204 「紅葉葉の散りて積もれる我宿に、誰を松虫ここら鳴くらむ」 紅葉の葉が散り積もってしまった我が家で、誰を待って松虫がこの辺りを鳴いているのだろうか。 205ひぐらし 「茅蜩の鳴きつるなべに日は暮れぬと、思ふは山の陰にざりける」 ひぐらしが鳴き始めた丁度その時に日が暮れてしまったのかと、思ったのは山の陰だったのだなあ。 206 「茅蜩の鳴く山里の夕暮れは、風より他に訪う人も無し」 かなかなぜみの鳴く山里の夕暮れ時は、風より他に訪ねて来る人もいないことよ。 今年最初の雁を詠んだ歌 在原元方 207 「待つ人に有らぬものから初雁の、今朝鳴く声の珍しきかな」 待ち人とは違いますけれども、初秋の雁が今朝鳴いている声は新鮮で驚いたことよ。 是貞親王のお屋敷の歌合せの歌 |
202 (闇夜の長い秋の野で道にも迷ってしまいましたよ、人を待つと云う松虫の鳴声のする方に宿を借りたら良かったのでしょうか。)との意で、松虫の鳴いている方向が私を待っている宿の在る場所なのかなあと詠んだ歌。 …や借らまし;…を借りたら良かったのか。疑問の係助詞「や」の連用形に動詞「借る」の未然形「借ら」更に特殊型助動詞「まし」の連体形。仮定条件を含んでの仮想の意を表す。 まつ;「松」と「待つ」との掛詞。 203 (秋の野原に人を待っているという松虫の鳴く声がするようですよ、この私の事を待っていると云うのでしょうか、とそこ迄行ってさあ尋ねてみましょう。)との意。 すなり;…ようだ。…に聞こえる。サ行変格活用型の動詞「為」の終止形「す」にラ行変型の助動詞「なり」の終止形。音や声を推定する意を表す。 204 (訪ねて来る道すら判らないほどに紅葉の葉が散り積もって埋もれてしまった我が家に、いったい誰を待つと云って松虫はこの辺りでこんなにも盛んに鳴いているのだろうか。)との意で、私には待つ人もいないのになあ。との意が透けて見える。 此処ら;この辺り。 ここら;たいそう。たくさん。数や程度について多い事を表す副詞。 らむ;…なので…だろう。現在の事実について、その原因・理由を推量する意を表す。 205 (蜩が鳴き始めた丁度その時に日が暮れてしまったのかと、思込んだのは山の陰に入り込んでいた為だったのだなあ。)との意で、帰りの山道もう日が暮れたのかとの一瞬の焦りを詠んだ歌。 なべに;「なへに」とも。…するとともに。…するにつれて。一つの事項と同時に他の事項が存在・進行する意を表す。接続助詞「なべ」に格助詞「に」 206 (一日の終わりを告げる”かなかなぜみ”の鳴く声が聞こえると、唯でさへ人寂しい山里の夕暮れ時は、家路を急ぐ人のみで訪ねて来る人も無く、一抹の淋しさをもたらす風だけが徒に訪れるばかりですよ。)との意。 207 (雁は私の待っている恋人とは違いますけれども、そうは言っても、初秋の雁が今朝鳴いている声を聞くのは春先以来の久しぶりであり、新鮮で驚きましたよ。)との意。 かな;…だなあ。…であることよ。終助詞「か」に終助詞「な」の付いた形で詠嘆の意を表す。 |
みぶのただみね 壬生忠岑;平安時代前期の歌人で、三十六歌仙の一人。下級官吏でありながらも和歌に優れ、師である紀貫之らと共に古今和歌集を撰した。温和で澄明な叙景歌が多い事で知られ、古今集以下の勅撰集に81首が入集する。歌論書に和歌体十種(忠岑十体)、家集に忠岑集が有る。生没年不詳。 松虫;虫の名前。まつむし・すずむしの類で、『すずむし』と特定する場合と特定しないで虫一般とする場合とがある。和歌では「人を待つ」の意に掛けて用いる場合が多い。現在の鈴虫は「リーン、リーン」と鳴き、松虫は「チンチロリン、チンチロリン」と鳴く。古くはこれが逆転していたものと考えられており、ちんちろりんと鈴を鳴らすように鳴くのが『すずむし』、りんりんと松籟が響く様にして鳴くのが『まつむし』とされており、虫の名前が今と逆になっていた。枕草子にも「虫はすずむし、ひぐらし、てふ、松虫、きりぎりす、はたおり、われから、ひをむし、蛍」と記されている。 しょうらい 松籟;松に吹く風。又その奏でる音。 ありわらののとかた 在原元方;平安前期の歌人で、中古三十六歌仙の一人。筑前守在原棟梁の子で、業平の孫にあたり、美作守を務め官位は正五位下。古今和家集に14首、後撰和歌集に8首、拾遺和歌集に2首。生没年未詳。 かり がん 雁;雁のことで、カモ目の大型の水鳥の総称。白鳥より小さく鴨よりも大きく、鴨と似た体系の水鳥。北半球で繁殖し日本では晩秋に到来し初春に帰って行く冬鳥。「かり」の名はその鳴声からくる擬声語。 ページのトップへ |