第1折模作本 序(構成)2
元永本古今和歌集の模作本です。元永本古今和歌集については、飯島春敬先生の解説と小松茂美先生の解説とで解釈に若干の差異が御座いますので、料紙制作の立場上加工につきましては、親美先生を含めた三者の解説を基に総合的な判断を行い独自の解釈を行っております。特に色の表現につきましては、現在の見た目と異なり臨書用紙ではやや新作感の残るものとなっております。以下に第1折(両面加工料紙五枚分)の都合20項分を掲載しておきますので参考にして下さい。
元々の料紙は表・具引唐紙、裏・装飾料紙(染金銀切箔砂子)で、白・紫・黄(黄茶系)・赤(赤茶系)・緑で15種類の唐紙模様が使われています。
1折には同柄5枚(小口10枚、項にして20項分)の唐紙料紙が使用されております。(但し上巻第10折のみ2柄使用)
項=ページのことです。(解説中の項数は、それぞれの第○○折中での項数になります。)
第五紙白色具引紙(二重唐草裏面) 金銀大小切箔砂子振 茶味があるのは経年変化による褐変の為 上巻 裏面料紙 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内白2 右項) 第1折中の12項目 解説及び使用字母へ 表面は 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の白色2 上巻第1折第五紙裏面清書用臨書用紙 この部分の料紙へ 第四紙裏面 第五紙裏面 (13項) (12項) |
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上巻第1折 第12項 第五紙 白色具引空摺 裏面白具引紙 『金銀大小切箔砂子』 古今和歌集 序 (現存8項目)=第五紙裏面料紙右側 |
上巻通しで第五紙裏面、欠損部分を含む12項目(現存の8項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
ものきくものにつけていひい だせるなり。はなになくうぐ ひす、みづにすむかはづのこゑ をきけばいきとしいけるも のいずれかは歌をよまざりけ る。ちからをもいれずしてあめつ ちをもうごかし、めにみえぬお |
毛乃支久毛能耳徒个天以比以 太世留那利。者那爾奈久宇久 飛春、美川爾須无加波徒乃己恵 乎幾个波以支止之以希留毛 能以川連可者哥遠與末左利計 類。知可良越毛以礼数之天安女川 知遠毛宇己可之、女爾美衣奴於 |
現代語訳 |
解釈 解説及び使用字母へ |
見る物、聞くものに付けて口に出して言うのだろう。 花で鳴く鶯、水に住む蛙の声を聞けば生きとし生けるもの 誰が歌を詠まないだろうか、否詠むに違いない。 力さへも入れないで天地を動かし、目に見えない鬼神 |
見る物、聞くものに付いて何かと口に出して言ってしまうのでしょう。 春は梅の花枝で鳴く鶯の囀り、秋には水辺に棲む蛙の鳴声を聞けばこの世に生を受けているすべてのものは、誰か歌を詠まない者がいるのでしょうか、いいえ詠まない者などいないと思いますよ。 力すら入れることも無く天地を動かし、目にすることの無い鬼神 ざりける;…なかった。打消しの助動詞「ず」の連用形「ざり」に過去の助動詞「けり」が疑問(反語)を表す係助詞「か」を受けて連体形「ける」になったもの。 あめつち 天地;天つ神と国つ神。 おにがみ 鬼神;恐ろしく猛々しい神。 |
生きとし生けるもの;この世に生を受けるすべての生き物。 四段活用の動詞「生く」の連用形「生き」に格助詞「と」及び強意の副助詞「し」が付き、更に四段活用の動詞「生く」の已然形「生け」に存続の助動詞「り」の連体形「る」そして名詞「もの」の付いたもの。 かはづ 蛙;カエルの総称であるが、特に渓流に住むカジカガエルの異称。暗灰褐色をした形の小さなカエルの一種で、谷川の岩の間を根城として夏から秋にかけて澄んだ美しい声で小鳥が囀る様にして鳴く。古来より雄の美しい鳴き声が喜ばれて飼育もされている。 あまつかみ 天つ神;高天原(天上の国)の神。古事記では天御中主神など。台風・大雨・雷・日食などの通常と異なる事を司ると考えられていた。 くにつかみ 国つ神;国土を支配し守護する神。地神・地祇とも書く。地震・火山噴火・洪水・土石流などの異変を司ると考えられていた。 ページ |
第四紙白色具引紙(二重唐草裏面) 金銀大小切箔砂子振 茶味があるのは経年変化による褐変の為 上巻 表面料紙 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内白1 左項) 第1折中の13項目 解説及び使用字母へ 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の白色1 上巻第1折第四紙裏面清書用臨書用紙 この部分の料紙へ 第四紙裏面 第五紙裏面(見開きの並び) (13項) (12項) |
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上巻第1折 第13項 第四紙 白色具引空摺 裏面白具引紙 『金銀大小切箔砂子』 古今和歌集 序 (現存9項目)=第四紙裏面料紙左側 |
上巻通しで第四紙裏面、欠損部分を含む13項目(現存の9項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
にがみをもあはれとおもはせ おとこおむなのなかをも やはらげ、たけきもののふの心 をもなぐさむるは歌なり けり。この歌あめつちひらけ はじまりけるときより、あま のうきはしのしたにて、女がみ |
爾加美遠毛安者禮止於无者世 越止己於武奈能那可遠毛 耶者良計、多个支毛乃々布能心 乎毛奈久左武留波哥奈利 个利。己乃哥安女川知悲良計 波之万利計留止支與利、阿末 能宇幾波之乃之太爾天女可□ |
現代語訳 | 解釈 解説及び使用字母へ |
鬼神さへもしみじみと心を動かされると思わせ、 男女の仲をも柔らげ、 勇ましい武士の心でさへも 気持ちを落ち着かせるのは歌であったのだ。 この歌、天と地の分れて この世界が出来上った時から 天の浮橋の下で、女神 |
目にすることの出来ない恐ろしい鬼神であっても愛着を感じて情け深いと思わせ、 男女の間柄であっても和やかなものとし、気性が荒々しく勇ましい武士の心でさへも気持ちを沈めて落ち着かせるのは和歌であったという事なのですよ。 この歌と云うものは天と地が分かれて、この世界が出来上がった時から天の浮き橋の下で伊邪那美命(女神)と伊邪那岐命(男神)とにお成りになられた事を告げる歌だったのです。 なりけり;…であったということだ。…であったなあ。断定の助動詞「なり」の連用形「なり」に過去の助動詞「けり」の付いたもので、ここでは伝聞の意を表す。 |
あま うきはし いざなぎのみこと いざなみのみこと 天の浮橋;神代に天地の間に架かっていたと云う橋。伊邪那岐命と伊邪那美命の二神が国土創成の際に高天原から降りて来る時に渡ったと云われる。 伊邪那岐命;日本神話で天つ神の命を受けて伊邪那美命と共に大和(大八洲)の国土や神を生み、山海や草木を司った男神。天照大神・素戔嗚尊の父神。伊邪那美命と別れた後は天で過ごしたと云われる。 伊邪那美命;伊邪那岐命の配偶女神。火の神を生んだことにより火神に焼き殺され、夫神と別れて黄泉の国に住むこととなる。以後は大地にあって生と死を司ったという。 ページ |
第四紙表面(白色具引唐紙) 空摺唐紙『二重唐草』 茶味があるのは経年変化による褐変の為 上巻 表面料紙 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内白1 右項) 第1折中の14項目 解説及び使用字母へ 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の白色1 上巻第1折第一紙清書用臨書用紙 この部分の料紙へ 第三紙表面 第四紙表面(見開きの並び) (15項) (14項) |
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上巻第1折 第14項 第四紙 白色具引 空摺唐紙 表面 『二重唐草』 古今和歌集 序 (現存の10項目)=第四紙表面料紙右側 |
上巻通しで第二紙表面、欠損部分を含む14項目(現存の10項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
をとこがみとなりたまへること をいへる歌なり。しかれどもよに つたはることは、ひさかたのあめ にしてはしたてるひめにはじ まり、したてるひめはあめわか みこのめなり。せうとのかみの かたちをかたにうつりて、かがやくを |
遠止己可見止奈利多末部留己止 乎以部留哥奈利。之可礼止毛與仁 徒多波留己止波、比佐可堂能安女 仁之天者之太天留悲女仁者之 末利、之多弖留飛女波安免和可 見己能女那里。世宇止農閑美能 加多知越可太爾宇川利天、加々也久乎 |
現代語訳 | 解釈 解説及び使用字母へ |
男神とお成りになられた事をお告げされた歌である。 そうではあるのだが世の中に伝わる事は、 天上界では下照姫に始まり、 下照姫とは天稚彦のお妃である。 兄人の神の有様は丘や谷となって、 輝かしいことを詠んだ、未開の民の歌であろう。 |
いざなみのみこと いざなぎのみこと 天の浮き橋の下で伊邪那美命(女神)と伊邪那岐命(男神)とにお成りになられた事を詠んで伝えた歌なのです。 そうなのですが、世の中に広く伝わっている事として、天上の世界では下照姫から広まり、下照姫と云うのは天稚彦の奥様に当たる神様で、兄上の味耜高日子根命の神の有様は美しい丘や谷となって輝かしい事を詠った、辺境の地での田舎じみた歌なのでしょう。 ひさかた あめ 久方の;「天」に掛る枕詞で訳さない。 |
したてるひめ あぢすきたかひこねのみこと あめわかひこ たかみむすびのかみ 下照姫;記紀神話で大国主命の娘(女)で、味耜高日子根命の妹、天稚彦の妃。天稚彦が高皇産霊神に罪を責められ処刑された時、その悲しみの声が天まで達したと伝わる。 あめわかひこ あまつくにたまのかみ あしはらのなかつくに 天稚彦;日本神話では天津国玉神の子として、天孫降臨に先立って出雲の国に降ったのだが、葦原中国を征討に出向かう事無く下照姫と結婚して8年もの間復命を避け、問責に訪れた使者雉の鳴女を投矢にて射殺するも、高皇産霊神にその矢を射返されて死亡する。 あしはらのなかつくに 葦原中国;葦の生い茂っている高天原(天上)と黄泉の国(地下)の中間にあたる処、即ち地上世界(現実世界)の意。日本国の異称。 きぎし 雉;キジの古称。ケーン、ケーンと鳴き、古来より子を思う情けの深い鳥とされていた。又、上記の逸話から、行ったきりで戻ってこない使者の事を「雉の頓使(ひたづかい)」とも云われている。 なきめ 鳴女;泣き女。葬儀の際に礼儀的に泣く女。又それを職業とする者。この風習が、伊豆七島や壱岐・沖縄などに残存している。 せうと 兄人;女から男の兄弟を呼ぶ時の言葉。兄にも弟にも言う。 たかみむすびのかみ 高皇産霊神;古事記で天地開闢の時に、天御中主神と神皇産霊尊と共に高天原に出現した造化三神の一。天孫降臨の号令を出し、天照大神と共に最高意思決定を示す神として語られている。天照大神と共に天稚彦に葦原中国征討の命を下した本神。 てんそんこうりん 天孫降臨;天皇家の由来と古代国家の起源に関する神話。6〜7世紀頃の成立とされ、記紀に依れば天照大神が孫の瓊瓊杵尊に三種の神器を与え、天壌無窮の神勅を発し、天児屋命等の神々を供に高天原から日向の高千穂峰に降臨させたという話しで、天皇家の絶対的神聖化を意図する意での神話。戦前までの日本国の国家の状態維持の基礎をなすもの。 ページ |
第三紙表面(紫淡色具引唐紙) 空摺唐紙『二重唐草』 茶味があるのは経年変化による褐変の為 上巻 表面料紙 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内淡 左項) 第1折中の15項目 解説及び使用字母へ 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の淡色 上巻第1折第三紙清書用臨書用紙 この部分の料紙へ 第三紙表面 第四紙表面(見開きの並び) (15項) (14項) |
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上巻第1折 第15項 第三紙 紫色淡色具引 空摺唐紙 表面 『二重唐草』 古今和歌集 序 (現存の11項目)=第三紙表面料紙左側 |
上巻通しで第三紙表面、欠損部分を含む15項目(現存の11項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
よめるえびすの歌なるべし。これ らはもじのかずもさだまら ず、歌のやうにもあらぬことど もなり。あらがねのつちにし てはすさのをのみことより ぞおこりける。ちはやぶる歌 はもじももさだまらず、すなを |
與女留盈比春能哥奈留部之。己礼 良波毛之乃閑須毛佐多末良 数、哥能也宇爾无安良奴己止々 毛那利。安良可禰乃川知爾之 天者春佐乃乎能美己止與利 曾於己利計留。知波也不留哥 者毛之无左堂末良数、々奈遠 |
現代語訳 |
解釈 解説及び使用字母へ |
輝かしいことを詠んだ、未開の民の歌であろう。 これ等は文字の数も定まらず、 歌の様でもない言葉並べの類である。 地上に在っては須佐之男命から始まったのである。 神代の昔には歌の文字数も定まっていなくて、 在りのまま飾らないので言っていることの本心が理解し難か ったようだ。 |
輝かしい事を詠った、辺境の地の田舎じみた歌なのでしょう。 これ等の歌は文字の数も一定しておらず、歌としての様相も満たしていない言葉ならべの一種なのです。 地上に於いては須佐之男命が和歌を詠んだ最初だという事ですよ。不思議なことが起きていたと云う神代の昔には歌の文字の数も定まっていなくて、 在りのままの飾らない言葉を並べたまま作っていたので、言いたい事の本心が分り難かったようですよ。 なるべし;…であるに違いない。断定の助動詞「なり」の連体形「なる」に推量の助動詞「べし」の付いたもの。 あらがね 粗金の;「土」に掛る枕詞で訳さない。土=大地。地上。「天」に対する「土」 |
えびすのうた 夷歌;みやびな歌に対する田舎じみた歌。 すさのおのみこと いざなぎのみこと あまてらすおおみかみ 須佐之男命;素戔鳴尊とも。日本神話で伊弉諾尊の子で天照大御神の弟。凶暴で高天原へ行って天の岩屋戸の事件を起こし、諸神によって高天原から追放されて、出雲の国へ出向き八岐大蛇を切り退治した後、天叢雲剣(後の草薙の剣)を得て天照大御神にこれを献上して、根の国(黄泉の国)へ赴いた。 ちはやぶる 千早振;「神代」に掛る枕詞。通常は訳さない。 原意は、勢いの強い。荒々しい。神の威力を示す「ち」に疾風の「疾し」が付き更に…のようにふるまう意の接尾語「ぶ」を添えて上二段活用の動詞となった「ちはやぶ」の連体形と考えられている。 尚、清音の「ちはやふる」ともするが、現代では神代の荒々しさは消えて、神々しさだけを纏った感覚のみが持て囃されている。 ページ |
第三紙淡紫色染紙(二重唐草裏面) 金銀大小切箔砂子ノゲ振 赤茶味があるのは経年変化による褐変の為 上巻 裏面料紙 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内淡 右項) 第1折中の16項目 解説及び使用字母へ 表面は 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の淡色 上巻第1折第三紙裏面清書用臨書用紙 この部分の料紙へ 第二紙裏面 第三紙裏面(見開きの並び) (17項) (16項) |
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上巻第1折 第16項 第三紙 紫色淡色具引空摺 裏面料紙 『金銀大小切箔砂子ノゲ』 古今和歌集 序 (現存の12項目)=第三紙裏面料紙右側 |
上巻通しで第三紙裏面、欠損部分を含む16項目(現存の12項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
にしてことのこころわきがたかり けらし。ひとのよとなりて よりぞ、すさのをのみこ となりてぞみそもじあま りひともじにはよみける。 すさのをのみことはあまてる おほむ神のこのかみなり。女 |
爾之弖己止乃己々呂和支可太可利 希良之。飛止乃與止那利天 與利曾、須左能乎能美與 止那利弖曾美所毛之安万 利比止毛之爾波與見計留 数左乃遠能美己止者安末天留 於保武神乃己能可美那利。女 |
現代語訳 |
解釈 解説及び使用字母へ |
それゆえ言っていることの本心が理解し難かったようだ。 いまは人の時代になったので、 素戔嗚尊になって初めて三十文字あまり 一文字として詠んだのであった。 須佐之男命は天照大御神の長男の神である。 娘(嫁神)と住もうと思って出雲の国に宮殿をお造りなさった時に、 |
在りのままの飾らない言葉を並べたまま作っていたので、言いたい事の本心が分り難かったようですよ。 今は神の代から人の時代となったので、素戔嗚尊の時になって初めて三十一文字の短歌形式として、文字をそろえて詠んだのでしょう。 素戔嗚尊とは天照大御神の兄弟姉妹の長兄の神なのですが、嫁の神様(奇稲田姫)と一緒に住もうと考えて出雲の国に宮殿をお造りなさった時に、 にして;…ので。…であって。…でありながら。断定の助動詞「なり」の連用形「に」に状態が如何なるかの意の接続助詞「して」の付いたもの。 事の心;物事の意味。趣旨。言葉の真意。 けらし;…していたらしい。…であったようだ。 過去の助動詞「けり」の連体形「ける」に推量の助動詞「らし」の付いた「けるらし」の約音。過去の推定を表す。 |
三十文字あまり一文字;五・七・五・七・七の三十一文字の短歌形式。 すさのおのみこと いざなぎのみこと あまてらすおおみかみ 素戔鳴尊;古事記では須佐之男命とも。日本神話で伊弉諾尊の子で天照大御神の弟。凶暴で高天原へ行って天の岩屋戸の事件を起こし、諸神によって高天原から追放されて、出雲の国へ出向き八岐大蛇を切り退治した後、天叢雲剣(後の草薙の剣)を得て天照大御神にこれを献上して、根の国(黄泉の国)へ赴いた。 やまたのおろち くしなだひめ おおなむちのかみ あめのした ねのくに 八岐大蛇を退治して奇稲田姫と結婚した時に大己貴神(大国主神)を生む。海原・天下・根の国の支配者とされている。 このかみ このかみ おさ 兄;長男。広く兄弟姉妹の内の兄、又は姉。氏上とも。「子の上」の意。また人の上に立つ長の意としても用いられた。 ページ |
第二紙紫中色染紙(二重唐草裏面) 金銀大小切箔砂子ノゲ振 赤茶味があるのは経年変化による褐変の為 上巻 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内中 左項) 第1折中の17項目 解説及び使用字母へ 表面は 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の中色 上巻第1折第二紙裏面清書用臨書用紙 この部分の料紙へ(古筆写真部分は料紙の左側) 第二紙裏面 第三紙裏面(見開きの並び) (17項) (16項) |
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上巻第1折 第17項 第二紙 紫色中色具引空摺 裏面料紙 『金銀大小切箔砂子ノゲ』 古今和歌集 序 (現存の13項目)=第三紙裏面料紙左側 |
上巻通しで第二紙裏面、欠損部分を含む17項目(現存の13項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
とすみたまはむとて、いづもの くににみやづくりしたまふと きに、そのところにやいろのく ものたつをみて、よみたまへ るなり。 [1] やくもたつ いづもやへがき |
登春美多末者武止天、以川毛乃 久爾々美也川久利之太末不止 起爾、曾乃止己呂爾也以呂能久 毛乃多川遠美天、與美太末部 類奈利。 [1] 也久毛太川 意都毛也部可支 |
現代語訳 |
解釈 解説及び使用字母へ |
娘と住もうと思って出雲の国に 宮殿をお造りなさった時に、 その位置に幾重にも重なっている雲の立っているのを見て、 お詠みになった。 歌1 「八雲立つ出雲八重垣妻籠めに 八重垣造るその八重垣を」 |
くしなだひめ 奇稲田姫(嫁神様)と住もうと思って出雲の国に宮殿をお造りなさった時に、丁度その上空に幾重にも重なっている雲の立っているのを見て、お詠みになった歌が、1の歌なのです (盛んに雲が湧き立つのにも似たの出雲の八重垣よ、外出しないよう妻を籠らせるために八重の垣を作るのだ、その美しい八重垣を)との意で、新婚の為の宮殿を造った時の歌。 八雲立つ:「出雲」に掛る枕詞であるが、ここでは意味が通る。と云うよりも、この歌を基に「八雲立つ」が「出雲」を表す枕詞となった。 |
やくも 八雲;八重咲の花弁の様に幾重にも重なって湧き立っている雲。八重の雲。又、この歌を基に「和歌」の意に使うこともある(風雅和歌集・序)。 八重垣;幾重にもめぐらした垣根。 [1]すさのおのみこと 須佐之男命が新婚の為の宮殿を造った時の歌。五・七・五・七・七の短歌形式の最初の歌とされる。 (八重の雲が湧き上がる、あの湧き出る雲が八重の垣根を作る。妻を籠らせるために我が家に八重の垣を作ってくれる、その美しい八重の垣根よ)との意とも取れるが、素戔嗚尊は神であるのだから神頼みの様に解するよりも、自ら作る八重垣の歌とした方が、より神らしい。 く し な だ ひ め あしなづち てなづち ひのかわ 奇稲田姫;櫛名田姫とも書く。出雲国の足名椎と手名椎との間に生まれた娘で、後の素戔嗚尊の妃。今の出雲市を流れる簸川の上流で、姫を奪い取ろうとした大蛇の八岐大蛇を成敗した素戔嗚尊へ嫁入し、出来た子が大国主命である。稲田姫とも。 ページ |
第二紙表面(紫中色具引唐紙) 空摺唐紙『二重唐草』 赤茶味が強いのは経年変化による褐変の為 上巻 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内白1 左項) 第1折中の7項目 解説及び使用字母へ 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の白色 上巻第1折第四紙清書用臨書用紙 この部分の料紙へ(古筆写真部分は料紙の右側) 第一紙表面 第二紙表面(見開きの並び) (19項) (18項) |
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上巻第1折 第18項 第二紙 紫色中色具引 空摺唐紙 表面 『二重唐草』 古今和歌集 序 (現存の14項目)=第二紙表面料紙右側 |
上巻通しで第二紙表面、欠損部分を含む18項目(現存の14項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
つまごめに やへがきつくる そ のやへがきを かくてぞはなをめで、とりを うらやみ、かすみをあは れみ、つゆをかなしぶこころ はおほくさまざまになりにけ る。とほきところもいでたつあし |
徒末己女爾 也部可支川久留 曾 農也部加支遠 可久天曾者那遠女天、止利越 宇良也美、可須美乎安波 礼美、川由遠可那之不己々呂 者於保久左末〜爾奈利爾計 留。止保支止己呂毛以天太川安之 |
現代語訳 |
解釈 解説及び使用字母へ |
歌1 「八雲立つ出雲八重垣妻籠めに 八重垣造るその八重垣を」 このようにして花を観賞して楽しみ、鳥を 羨やましく思い、霞にしみじみと感動して、 露を愛でる心情やそれを表す言葉は 多く様々に成ったという事である。 遠い所も一歩踏み出す足もとより始まって |
歌1 (盛んに雲が湧き立つのにも似たの出雲の八重垣よ、外出しないよう妻を籠らせるために八重の垣を作るのだ、その美しい八重垣を)との意で、新婚の為の宮殿を造った時の歌。 歌1を詠んだように花を観賞しては歌に詠んで楽しみ、鳥を見ては大空を自由に飛び回り気ままに囀る姿を羨ましく思い、霞にしみじみと感動して、露を愛でる気持ちや心の変化を表す言葉は、数多く生まれて様々になったという事ですよ。 どんなに遠い処でも最初の一歩から始まって、 あわ 憐れび;しみじみとしたものに思う。バ行四段活用「憐れぶ」の連用形。 かな 愛しぶ;可愛いと思う。愛でる。バ行四段活用の動詞の連体形。 |
つまご 妻籠め;妻を籠り住まわせる事。妻と一緒になる事。「妻篭み」とも。 やえがき 八重垣;幾重にもめぐらした垣根。八重桜の花弁の様に何重にも重なった様な垣根で、丁度生垣の迷路を思わせるような垣。 か 斯くてぞ;こうして。この様にして。副詞「斯くて」に強意又は告知の意を表す係助詞「ぞ」の付いたもの。 又は、接続詞として話題を転じる時に文頭に用いる。さて。こうして。それから。の意 出で立つ;出かける。出発する。 ページ |
第一紙表面(濃紫色具引唐紙) 空摺唐紙『二重唐草』 赤茶味があるのは経年変化による褐変の為 上巻 表面料紙 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内濃 左項) 第1折中の19項目 解説及び使用字母へ 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の紫濃色 上巻第1折第一紙清書用臨書用紙 この部分の料紙へ(古筆写真部分は料紙の左側) 第一紙表面 第二紙表面(見開きの並び) (19項) (18項) |
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上巻第1折 第19項 第一紙 濃紫色具引空摺 空摺唐紙 表面 『二重唐草』 古今和歌集 序 (現存の15項目)=第一紙表面料紙左側 |
上巻通しで第一紙表面、欠損部分を含む19項目(現存の15項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
のもとよりはじまりて、とし つきをわたり、たかき山もふも とのちりゐぢよりなりて あまくもたなびくまでおゐ のぼれるごとくにこのうたも かくのごとくなるべし。なには |
能毛止與利者之末利天、止之 川支遠和多利、太可幾山毛不毛 止能知利為知與利那利天 安末久毛太奈飛久万天於為 能本礼留己止久爾己乃宇太毛 可久能己止久奈留部之。奈爾波 |
現代語訳 |
解釈 解説及び使用字母へ |
遠い所も一歩踏み出す足もとより始まって 年月を経過して、高い山も 麓の塵と泥から出来上って、 空にある雲のたなびく処まで成長して 高くなるかの様にこの歌も この様に生まれ育って成長するに違いない。 難波津の歌は帝(仁徳天皇)の治世の始りである。 |
どんなに遠い処でも最初の一歩から始まって、気の遠くなるような長い年月を経過する事で、高い山でさへも麓に出来た小さな塵や泥が重なり合って、やがて空の上の雲の棚引く様な場所まで成長して高くなったかの様に、この和歌と云う物も同様に長い年月を経て大きく発展するに違いないのです。 難波津の歌は仁徳天皇の御代の始まりを祝う歌なのですよ。 ちりひぢ 塵泥;塵と泥。小さなものの喩え。(塵も積もれば山となる。) お のぼ 生ひ昇る;生長して高く伸びる。 なるべし;…だろう。…であるに違いない。断定の助動詞「なり」の連体形「なる」に推量の助動詞「べし」の終止形。 |
か ごと かくのごとし かくのごとし 斯くの如く;このように。漢文より「如此」「如斯」とも。副詞「斯く」に格助詞「の」更に助動詞「如し」の連用形「如く」。 なにわづ にんとくてんのう わに 難波津の歌;仁徳天皇の即位を祝って王仁の詠んだ歌。 「難波津に咲くやこの花冬ごもり、今は春べと咲くやこの花」 (難波津に咲くこの梅の花よ、冬の寒い間には芽を出さなかったけれど、今はもう春ですよと咲いているよ、この花が。) 今までよく耐えていらっしゃいましたね、これからは貴方が花を咲かせる番(貴方の春)ですよ。との意。 次の歌と共に手習の初めに習う歌とされている。 「安積山影さへ見ゆる山の井の、浅き心を我が思はなくに」 安積山の姿さへ写して見える程深い山中の泉であったなら、浅はかなこの心情を私は思い悩むことも無かったのに。 浅い泉では底が見えてしまって山の姿を映さない、山の姿を映せる程も深い泉の様に私の懐も深かったならば、何も思い悩む事は無かったのでしょうに!との意。手習の為には摘み食いなどではなく、浮気心をなくして無心で何度も何度も深く練習しなさいよ!との意を込めて書かせる為のもの。 ページ |
第一紙紫濃色染紙(二重唐草裏面) 金銀大小切箔ノゲ振 赤茶味が強いのは経年変化による褐変の為 上巻 裏面料紙 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内濃 右項) 第1折中の20項目 解説及び使用字母へ 表面は 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の紫濃色 上巻第1折第一紙裏面清書用臨書用紙 この部分の料紙へ(写真部分は料紙の右側) (第2折) (第1折) 第一紙裏面 第一紙裏面(見開きの並び) (21項) (20項) |
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上巻第1折 第20項 第一紙 白色具引空摺 裏面料紙 『金銀大小切箔砂子』 古今和歌集 序 (現存第16項)=第一紙裏面料紙右側 |
上巻通しで第一紙、欠損部分を含む20項目(現存の16項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
づの歌はみかどのおほむはじ めなり。おほさざきのみかどの なにはづにて、みこときこえ けるとき、とう宮をたがひに ゆづりてくらゐにつきたまは で、みとせになりにければ王 |
川能哥者美可止乃於保無八之 女那里。於保左々支乃美可止乃 奈爾者川爾弖、美己止幾己衣 計留止支、止宇宮遠太可比爾 由川利天久良為爾川支太末八 天、美止世爾奈利仁个礼者王 |
現代語訳 |
解釈 解説及び使用字母へ |
難波津の歌は帝(仁徳天皇)の治世の始りである。 おおさざき 大鷦鷯の帝の難波津にて 御言葉が聞こえて来た時に、 東宮をお互いに譲り合って皇位にお就にならないで 三年になってしまったそうなので、 わ に 王仁というお方が気掛りに思って、 |
難波津の歌は仁徳天皇の御代の始まりを祝う歌なのですよ。 大鷦鷯の尊が難波津にいらした折、天皇の御言葉が伝えられて来た時に、東宮をお互いに譲り合ってしまい、中々皇位にお就きにならないで三年も経ってしまわれたそうなので、王仁と云うお方が気掛りに思って、 にて;…にあって。…において。…で。時・場所を示す格助詞。格助詞「に」に接続助詞「て」の付いた形。 みこと みことのり 命;御言宜の約。神や天皇の仰せ言。天皇のおことば。 なりにければ;…であったという事なので。…であったので。断定の助動詞「なり」の連用形「なり」に作用の起った時点を示す助詞「に」、更に伝聞の意を表す過去の助動詞「けり」の已然形「けれ」そして原因・理由の意としての順接の確定条件を表す接続助詞「ば」 |
おおさざき にんとくてんのう 大鷦鷯の帝;仁徳天皇。記紀に伝承されている5世紀前半の天皇で、応神天皇の第4皇子。難波に都を設けた最初の天皇として難波の繁栄に努め、朝鮮・中国と交渉して文化を向上させ、大和朝廷の最盛期を築いたとされている。又、租税を三年間免除したとされる聖帝伝承もある。 なにはづ 難波津;大阪湾の内、難波一帯の港湾部。難波江の要津で、瀬戸内海へ出る港として栄えた。又、「難波津の歌」の代名詞。 とうぐう 東宮;東方は春に配し万物生成の意を含み、易では東を震とし震は長男を表すことから、加えて昔はその宮殿が皇居の東に位置していたから言う皇太子の宮殿。皇太子の称にも使い、春の宮とも言う。春宮(とうぐう)とも書く。 わ に くだら まつえい おうじんてんのう こうし あちき 王仁;百済から渡来した漢の高祖の末裔とされ、日本書紀によれば応神天皇の時に貢使として訪れていた阿直岐に推挙され来朝した学者で、論語10巻と千字文1巻を伝えたとされる。西琳寺を氏寺とする文筆専門の氏族である西文氏(かわちのふみうじ)の祖とされている。 ろんご 論語;四書五経の一つ。孔子の言行録、孔子と弟子の時人らとの問答、弟子たち同士の問答などを収録した書物。20編からなり学而篇より尭日篇に至る日常生活に即した実践的理論であり、孔子の思想を最もよく伝える。弟子たちの記録したものに始まり、漢の時代に集大成されたもの。孔子研究の基本資料として、孔子の理想的道徳である「仁」の意義、政治や教育などの意見を述べている。 せんじもん 千字文;中国六朝の梁の周興嗣が武帝の命により撰した韻文で、四字一句の250句からなる一巻。異なる漢字一千字から成る為に、この名がある。東晋の王羲之の筆跡の中から集めたと云われており、唐代以降普及した。王羲之の筆跡の模本が天平年間に渡来し、現存している。 「天地玄黄、宇宙洪荒」に始まり、「謂語助者、焉哉乎也」に終わる。初学教科書又は、習字手本として流布されていた。 ページ |
第一紙薄茶(濃)染紙 (二重唐草裏面) 金銀大小切箔砂子ノゲ振 茶味が現れているのは経年変化による褐変の為 上巻 第1折(濃・中・淡・白1・白2の内白1 左項) 第1折中の7項目 解説及び使用字母へ 二重唐草・空摺唐紙(具引空摺)の淡黄茶色 上巻第1折第四紙清書用臨書用紙 この部分の料紙へ(写真部分は料紙の右側) (第2折) (第1折) 第一紙裏面 第一紙裏面(見開きの並び) (21項) (20項) |
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上巻第2折 第1項 第一紙 淡黄茶(濃)具引空摺 裏面料紙 『金銀大小切箔砂子ノゲ』 古今和歌集 序 (現存通しでの17項目)=第一紙裏面料紙左側 |
上巻通しで第一紙裏面、欠損部分を含む21項目(現存の17項) |
かな |
使用字母 解釈(現代語訳)へ |
仁といふ人のいぶかりおもひ て、よみてたてまつりける歌 なり。このはなはむめの花をい ふなるべし。あさかやまのこと ばはうねめのたはぶれより よみて、かつらきのおほきみを |
j止意不人乃以不可利於毛比 弖、與美天太天末川利計留哥 奈利。己乃者那者无女乃花遠以 不奈留部之。安佐可也万乃己止 者々宇禰女乃多波不礼與利 與美天、加徒良幾能於保支美遠 |
現代語訳 |
解釈 解説及び使用字母へ |
王仁というお方が気掛りに思って、 詠んで差し上げた歌である。 こ(木)の花とは梅の花を言っているのであろう。 安積山の和歌は采女の 冗談ごとで詠んで 葛城の大君を陸奥国に派遣なさっていた時に、 |
王仁と云うお方が気掛りに思って、お詠みになって献上された和歌なのです。「この花」とは梅の花を言っているのでございましょう。 安積山の和歌は。采女が遊び心で詠んだもので、葛城の大君を陸奥の国に派遣されていた時に いぶか 訝り;気掛りに思う。事情を知りたいと思う。「訝る」の連用形。 なるべし;…だろう。…であるに違いない。断定の助動詞「なり」の連体形「なる」に推量の助動詞「べし」の終止形。 たはぶ 戯れ;戯れる事。お遊び。冗談。 |
うねめ 采女;古代に郡の少領以上の家族から選んで天皇の食事に奉仕させていた後宮の女官。律令制では水司・膳司に配属された。主に端正な容姿の者が貢がれた。 かづらきのおおきみ すいぜいてんのう かむぬなかわみみ 葛城の大君;綏靖天皇。記紀伝承上の天皇。神武天皇の第3皇子。名は神淳名川耳という。 みちのくに 陸奥国;磐城・岩代・陸前・陸中・陸奥の五か国の古称。 葛城の大君を陸奥国に派遣なさっていた時に、国司の仕事が粗末なことになると云って、準備などをなさったのですがつまらなかったので、先程の采女とかいう娘の素焼きの盃を取って詠んだそうである 安積山の歌 「安積山影さへ見ゆる山の井の、浅き心を我が思はなくに」 安積山の姿さへ写して見える程深い山中の泉であったなら、浅はかなこの心情を私は思い悩むことも無かったのに。 浅い泉では底が見えてしまって山の姿を映さない、山の姿を映せる程も深い泉の様に私の懐も深かったならば、もしかしたら大君が私の事をお慕い申して下さるかもなどと思い悩む事は無かったのでしょうに!との意。 ページ |