升色紙３（深養父集歌29～歌43）∞∞ようこそ美術料紙の世界へ∞∞

臨書用紙

升色紙　伝藤原行成筆　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

深養父集　断簡　（11世紀中頃～１２世紀初頭の頃の書写と考えられる）

多くの料紙が長方形の形をしているのに対して、真上より見た升の形をしている処からその名が付けられた升色紙は、清原深養父の家集を書写したもの。元は鳥の子紙を使用した大和綴じの冊子本と思われる。然し乍ら冊子の原型はなく全て断簡となってしまっている為、憶測ではあるが二項に歌三首を書いたと思われる部分もあるため、元の形は桝形二つ分のやはり長方形の料紙ではあるまいか。冊子にした時には色紙の形になる為、色紙形を意識した墨蹟になっている。墨の濃淡、墨継ぎの位置、行間、或いは行を絡ませた重ね書きと実に動きの多彩な色紙に仕立ててある。伝藤原行成筆とされているが、行成の筆に因るものではない。寸松庵色紙（伝紀貫之筆）、継色紙（伝小野道風筆）と共に平安の三色紙と称される。
色紙は当時、色紙（いろのかみ＝素色・白具引を含む染紙の料紙のことで、今日の「いろがみ」＝折り紙とは異なる）のことで、大きさや形を意味するものではなく「しきし」と呼んでいた様である。今日でいう処の色紙（しきし）は無く当時は色紙形と呼ばれて、屏風や壁面・襖などの絵の中に歌を書くスペースとしての桝形が設けられていた。

現存する三十三葉の内、七葉については部分的に継紙を行ったと思われる個所が存在する（歌11、歌23、歌24、歌26、歌27、歌29、歌39）。即ち美しい散らし書きの部分に倣って後の世の人が、左右の余白を作ったり、或いはまた行間の余白を作ったりして一葉の色紙に仕立てたものである。恐らくは当時流行っていた茶の席で、一服の絵の中の色紙形宜しく、鑑賞で自慢する為のものであったのかも知れない。それだけ当時の色紙の散らしの評価が高かったということになる。

料紙は白の鳥の子紙で全面に雲母砂子を撒いたものと、薄く藍染にして同様に雲母を撒いたものとが在り、現存するものの中に薄茶の物と趣の異なる茶系の物とが在り、或は別の薄色に染められたものが存在していたのかも知れない。元の料紙は恐らく縦4寸6分×横8寸程の物で、それらを谷折りにした冊子本と思われる。升色紙に使われている白は繊維の塵をよく取り除き、水に十分さらして余分な色味を洗い流し、清楚な素色に漉上げたもので、手間暇のかかる非常に貴重なもので当時の書き手によく好まれていた。白には他に具引きをしたものもある。

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なつのよは	うちはへて	さきにけり	杏花と云題を	三月つごもりがた	山櫻見て	はるゆきのふるひ

ふゆながら春	おほぞらに	さよふけて	はなすすき	かみなゐの	きえかへり	いくよへて

こころをぞ	みつしほの	いまははや	ひとをおもふ	恋むしのごと	かはなぐさといふ	ふゆながら空

ともすれば	おもひけむ	なみたかく	むかしみし	うつせみの	ひかりなき	うらみても

かな書　歌番号は宮内庁書陵部本（桂宮本）「深養父集」による

４寸３分×３寸７分（素色）	ヽ　　　　　　　　　　　　　、うらみてもしほの　　　　　、ひるまはなぐさめつ　　　　　、　　　たもとになみの　　　　　よるを　　　　　いかにせん使用字母ヽ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　、宇良三天毛　之　本乃　　　　　、比留万八　那久左女川　　　　　　　　、　　　　　　太毛止耳那三能　　　　　　　　　　與留遠　　　　　　　　　以可耳世无
ヽ　；藤原定家の集付け　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　歌２９　うらみても潮のひるまはなぐさめつ、袂に波のよるをいかにせん　　　　　　（思いの届かない事を）怨んでみても汐の干ている間は慰められている、袂に満つ汐の波（溢れ来る涙の波）の寄り来るのをどうしたものか。浦見ても潮の昼間は自分自身で慰めている、袂に波の寄ってくる夜はどうしようもない。行の右端約４分及び左端約１寸に料紙の継紙部分在り。	参考（桂宮本）「うらみても汐のひるまになぐさめつ、袂に波のよるいかにせん」潮；朝方に満ち来る海面上昇汐；夕方に満ち来る海面上昇
４寸６分×４寸２分	ものおもひも　　　　　　　　　な　しひかりなきたにに、　　　　　ははるのよそ　　　　　　なればさき　　　　　　　てとく　　　　　　　　　ちる元禄七年七月仲旬使用字母　　　　　　　毛乃於无比毛　　　　　　　　　　　　　　奈之比可利那支　多耳々　　　、　　　　　　　八々留乃與曾　　　　　　　難礼盤左支　　　　　　　　　　天止久　　　　　　　　　　　　　　知留元禄七年七月仲旬
歌３１　光無き谷には春の他所なれば、咲きて疾く散る物思いも無し　光の当たらない谷間では春とは名のみの別世界である様に、花開いてもすぐに散るような思い煩うことも無ければよいのに近江家煕模写　陽明文庫蔵	元禄七年七月中旬（１６９４年７月中頃）近江家煕；（１６６７年～１７３６年）江戸中期の公卿で、関白太政大臣を務める。能書として藤原行成の書風を習い、再興にも務めた。出家後の号は予楽院。
４寸６分×３寸６分（薄藍色）	うつせみのむなしき　、　からになるまでもわすれむと　　　　　、　　　　おもふわれ　　　　　ならなくに使用字母宇川世美乃武奈之支　、　　可良爾奈留万天无和春礼武止　　　　　　　、　　　　　　於毛不和礼　　　　　　　　奈良那久仁
歌３４　　空蝉の空しきからになるまでも、忘れむと思う吾ならなくに　　空蝉の様に魂のない亡骸になるまでも、貴方の事を忘れようと思う私ではないのに。現人（うつせみ）；語源は現臣（うつしおみ）から転じたもの。この世に存在する人。空蝉は平安以降に生まれた当字。目には見えるのに中身のない様子をセミの抜け殻を以って風流にたとえたもの。白鶴美術館蔵	参考（桂宮本）「空蝉の空しきからになるまでも、忘れんと思うわれならなくに」
４寸４分×３寸６分（薄藍色）	かなむかしみし　はる　　　、新　　　　　　　　　　　、は　　、　　　もむかしのはる　ながら　わ　が　み　ひ　と　つ　の　　　　むかしながらに　　　　　　あらずも　　　　　　　　　　　ある使用字母　　　　　　　　　　　　　　閑那武可之身志　者流　　　、新　　　　　　　　　　　　　　　　　、波　　　　　　　、　　　　毛武可之乃　波留、　那可良　和可三比止徒乃　　　　　　無加志那可良仁　　　　　　　　　安良須毛　　　　　　　　　　　　　　　愛流
新；藤原定家の校合（新古今和歌集）　　　　　　　　　　　　　　歌３７　　昔見し春も昔の春ながら、昔ながらに在らずもあるかな　　　　今も昔も何もかも春も昔の春のままなのだが、私はと云うともう昔のままではなくなってしまったのだよ。昔見し春は昔の春ながら、我身一つの在らずもあるかな　　　昔見ていた春は今でも昔と同じ春なのだが、唯一私自身は昔とは変わってしまったのだよ。	参考（桂宮本）「昔みし春はむかしの春ながら、我身ひとつのあらすも有哉」「も」の横の「は」、「むかしながらに」の横の「わがみひとつの」も或は藤原定家の校合か、それとも後の手に因る校合か。
４寸４分×３寸６分（素色）	なみたかくもみぢ　　、おほくぞながれける　　　せぜうちはらふ　　ひと　し　なけ、　　　　　　　　れば使用字母那三太可九毛美知　　、　　　於保久曾奈可礼計留　　　　　　　世々宇知者良不　　　　　比止　之　奈計、　　　　　　　　　　　　　　　礼盤
歌３８　　涙掻くもみぢ多くぞ流れける、せぜうちはらう人しなければ涙を拭えども拭えども、紅葉が流れるほどの川となって流れてゆきますよ。溜る瀬毎に払い除けてくれる人も無くて。波高く紅葉多くぞ流れける、瀬々打ち払う人し無ければ雨上がりだろうか水嵩が増して、少し川面が荒れている。瀬ごとに祓い清める人もいなくて、紅葉が沢山流れて浅瀬に溜っているのですね。	参考（桂宮本）「涙河もくづおほくやなかれ出る、せぜうちはらふ人しなければ」
４寸３分×４寸１分	をおもひけむひとぞとも　　、に　お　も　は　ま　し　、　　まさしやむくいなかり　　けりやは使用字母　　　遠於毛比計武比止曾止无　　、耳　　於　毛　波　末　之　　、　　万左之也武久以奈可利　　希利也八
歌３９　　思いけむ人をぞ共に思わまし、まさしや酬いなかりけりやは　　互いに思っていただろう人をこそ思っていればよかったのに、そうしておれば確かに今の状況（因果応報）は無かったであろうか。行の左端約１寸８分に料紙の継紙部分在り。	参考（桂宮本）「思ひける人をぞともにおもひける、まさしやむくひなかりけりやは」やは；疑問・反語の係助詞「や」に係助詞「は」の付いたもの。・・・であろうか、いやそんなことはない。
４寸３分×３寸7分（朽葉色）	ともすればたち　　　　　、なむとするあまくものそらにもひと　　　、　　のおもほゆる　　　　　　　　かな使用字母止毛春礼盤太知　　　　　　、　奈武止春留安万久毛能曾良耳毛比止　　、　　　　能於无保由留　　　　　　　　　　　　　可那
歌４３　　ともすれば立なむとする天雲の、空にも人の思ほゆるかな　　　ややもすれば立登ろうとする天雲の（ことを思うと）、空でさへも人の如く（直ぐに涙するものなのかと）思われるのかなミホミュージアム蔵

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　清書用１冊６２７０円（税込）

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朽葉色

清書用　雲母紙２

薄藍色

清書用　雲母紙３
しろいろ　　　　　
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ハクビ製清書用臨書用紙として制作している本品は、刷毛にてボカシを入れたもので、雲紙風にあつらえたものです。
手作り製品の為、製作途中で発生する色むら､刷毛むら、汚れ、キズ等僅かの違いで規格外となったものを特価提供しております。程度はピンからキリまで御座いますが､中には見た目殆ど変わらないものも含まれている場合も御座います｡
溪雨資料館にて”一部やや難あり”のものを　３１９０円（税込）でお分け致しております。数に限りが御座いますのでご了承ください。
正規品の清書用については､お近くの書道用品店でお求めになれます｡
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４寸３分×３寸７分（素色）	ヽ　　　　　　　　　　　　　、うらみてもしほの　　　　　、ひるまはなぐさめつ　　　　　、　　　たもとになみの　　　　　よるを　　　　　いかにせん使用字母ヽ　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　、宇良三天毛　之　本乃　　　　　、比留万八　那久左女川　　　　　　　　、　　　　　　太毛止耳那三能　　　　　　　　　　與留遠　　　　　　　　　以可耳世无
ヽ　；藤原定家の集付け　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　歌２９　うらみても潮のひるまはなぐさめつ、袂に波のよるをいかにせん　　　　　　（思いの届かない事を）怨んでみても汐の干ている間は慰められている、袂に満つ汐の波（溢れ来る涙の波）の寄り来るのをどうしたものか。浦見ても潮の昼間は自分自身で慰めている、袂に波の寄ってくる夜はどうしようもない。行の右端約４分及び左端約１寸に料紙の継紙部分在り。	参考（桂宮本）「うらみても汐のひるまになぐさめつ、袂に波のよるいかにせん」潮；朝方に満ち来る海面上昇汐；夕方に満ち来る海面上昇
４寸６分×４寸２分	ものおもひも　　　　　　　　　な　しひかりなきたにに、　　　　　ははるのよそ　　　　　　なればさき　　　　　　　てとく　　　　　　　　　ちる元禄七年七月仲旬使用字母　　　　　　　毛乃於无比毛　　　　　　　　　　　　　　奈之比可利那支　多耳々　　　、　　　　　　　八々留乃與曾　　　　　　　難礼盤左支　　　　　　　　　　天止久　　　　　　　　　　　　　　知留元禄七年七月仲旬
歌３１　光無き谷には春の他所なれば、咲きて疾く散る物思いも無し　光の当たらない谷間では春とは名のみの別世界である様に、花開いてもすぐに散るような思い煩うことも無ければよいのに近江家煕模写　陽明文庫蔵	元禄七年七月中旬（１６９４年７月中頃）近江家煕；（１６６７年～１７３６年）江戸中期の公卿で、関白太政大臣を務める。能書として藤原行成の書風を習い、再興にも務めた。出家後の号は予楽院。
４寸６分×３寸６分（薄藍色）	うつせみのむなしき　、　からになるまでもわすれむと　　　　　、　　　　おもふわれ　　　　　ならなくに使用字母宇川世美乃武奈之支　、　　可良爾奈留万天无和春礼武止　　　　　　　、　　　　　　於毛不和礼　　　　　　　　奈良那久仁
歌３４　　空蝉の空しきからになるまでも、忘れむと思う吾ならなくに　　空蝉の様に魂のない亡骸になるまでも、貴方の事を忘れようと思う私ではないのに。現人（うつせみ）；語源は現臣（うつしおみ）から転じたもの。この世に存在する人。空蝉は平安以降に生まれた当字。目には見えるのに中身のない様子をセミの抜け殻を以って風流にたとえたもの。白鶴美術館蔵	参考（桂宮本）「空蝉の空しきからになるまでも、忘れんと思うわれならなくに」
４寸４分×３寸６分（薄藍色）	かなむかしみし　はる　　　、新　　　　　　　　　　　、は　　、　　　もむかしのはる　ながら　わ　が　み　ひ　と　つ　の　　　　むかしながらに　　　　　　あらずも　　　　　　　　　　　ある使用字母　　　　　　　　　　　　　　閑那武可之身志　者流　　　、新　　　　　　　　　　　　　　　　　、波　　　　　　　、　　　　毛武可之乃　波留、　那可良　和可三比止徒乃　　　　　　無加志那可良仁　　　　　　　　　安良須毛　　　　　　　　　　　　　　　愛流
新；藤原定家の校合（新古今和歌集）　　　　　　　　　　　　　　歌３７　　昔見し春も昔の春ながら、昔ながらに在らずもあるかな　　　　今も昔も何もかも春も昔の春のままなのだが、私はと云うともう昔のままではなくなってしまったのだよ。昔見し春は昔の春ながら、我身一つの在らずもあるかな　　　昔見ていた春は今でも昔と同じ春なのだが、唯一私自身は昔とは変わってしまったのだよ。	参考（桂宮本）「昔みし春はむかしの春ながら、我身ひとつのあらすも有哉」「も」の横の「は」、「むかしながらに」の横の「わがみひとつの」も或は藤原定家の校合か、それとも後の手に因る校合か。
４寸４分×３寸６分（素色）	なみたかくもみぢ　　、おほくぞながれける　　　せぜうちはらふ　　ひと　し　なけ、　　　　　　　　れば使用字母那三太可九毛美知　　、　　　於保久曾奈可礼計留　　　　　　　世々宇知者良不　　　　　比止　之　奈計、　　　　　　　　　　　　　　　礼盤
歌３８　　涙掻くもみぢ多くぞ流れける、せぜうちはらう人しなければ涙を拭えども拭えども、紅葉が流れるほどの川となって流れてゆきますよ。溜る瀬毎に払い除けてくれる人も無くて。波高く紅葉多くぞ流れける、瀬々打ち払う人し無ければ雨上がりだろうか水嵩が増して、少し川面が荒れている。瀬ごとに祓い清める人もいなくて、紅葉が沢山流れて浅瀬に溜っているのですね。	参考（桂宮本）「涙河もくづおほくやなかれ出る、せぜうちはらふ人しなければ」
４寸３分×４寸１分	をおもひけむひとぞとも　　、に　お　も　は　ま　し　、　　まさしやむくいなかり　　けりやは使用字母　　　遠於毛比計武比止曾止无　　、耳　　於　毛　波　末　之　　、　　万左之也武久以奈可利　　希利也八
歌３９　　思いけむ人をぞ共に思わまし、まさしや酬いなかりけりやは　　互いに思っていただろう人をこそ思っていればよかったのに、そうしておれば確かに今の状況（因果応報）は無かったであろうか。行の左端約１寸８分に料紙の継紙部分在り。	参考（桂宮本）「思ひける人をぞともにおもひける、まさしやむくひなかりけりやは」やは；疑問・反語の係助詞「や」に係助詞「は」の付いたもの。・・・であろうか、いやそんなことはない。
４寸３分×３寸7分（朽葉色）	ともすればたち　　　　　、なむとするあまくものそらにもひと　　　、　　のおもほゆる　　　　　　　　かな使用字母止毛春礼盤太知　　　　　　、　奈武止春留安万久毛能曾良耳毛比止　　、　　　　能於无保由留　　　　　　　　　　　　　可那
歌４３　　ともすれば立なむとする天雲の、空にも人の思ほゆるかな　　　ややもすれば立登ろうとする天雲の（ことを思うと）、空でさへも人の如く（直ぐに涙するものなのかと）思われるのかなミホミュージアム蔵