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江戸初期書写
金銀下絵古今和歌集 序
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江戸初期書写 第一紙
現代語訳 古筆かなへ 注釈
和歌は人の心情(気持)を根本にして
多くの言葉(和歌)となったものである。
世の中で生活している人々は仕事が沢山
有るので、心に思う事を、見る物
聞く物につけて(何かと)口に出して言うのである。
花に鳴く鶯、水に住む蛙の
声を聞けば、あらゆる生き物は
どの生き物が歌を詠まなかっただろうか(いや、詠まなかったものなど有はしないだろう)。力を
入れる事無く天の神・地の神さへも動し、目に見えない
鬼神さへもしみじみと心を動かされると思わせ、男女
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仕事;する事。しなくてはならない事。出来事。など
生きとし生けるもの;この世に生を受けるすべてのもの。
四段活用の動詞「生く」の連用形「生き」に格助詞「と」及び
強意の副助詞「し」が付き、更に四段活用の動詞「生く」の
已然形「生け」に存続の助動詞「り」の連体形「る」そして名詞「もの」の付いたもの。
ざりける;…なかった。打消しの助動詞「ず」の連用形「ざり」に過去の助動詞「けり」が疑問(反語)を表す係助詞「か」を受けて連体形「ける」になったもの。
あめつち
天地;天つ神と国つ神
あまつかみ
天つ神;高天原(天上の国)の神。古事記では天御中主神など。
くにつかみ
国つ神;国土を支配し守護する神。地神・地祇とも書く。
おにがみ
鬼神;恐ろしく猛々しい神。
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現代語訳には解釈を込めた意訳部分も有ります。
理解し易い様に難しい単語や意味合いの幾通りもある単語などには右側に注釈を設けております。
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古今和歌集 序 第二紙
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江戸初期書写
金銀下絵古今和歌集 序
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江戸初期書写 第二紙
現代語訳 古筆かなへ 注釈
鬼神さへもしみじみと心を動かされると思わせ、男女
の仲をも柔らげ、勇ましい武士の心
でさへも気持ちを落ち着かせるのは歌である。この歌
天と地の分れてこの世界が出来上った時から
□*1
どれ程多くの年月が過ぎたか、その通りなのだが世の中に
伝わる事として天上の世界では
下照姫に始まり□*2
地上に在っては須佐之男命
から始まったのである。(不思議なことが起きたと云う)
神代の昔には歌の文字数も定まっていなくて、
在りのまま飾らないので言っていることの本心が理解し難か
ったようだ。いまは人の時代になったので、
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黄色文字は写真重複部分です。
然あれど;そうではあるが。そうではあるけれども。
副詞「然」にラ行変格活用の補助動詞「あり」の已然形「あれ」と接続助詞「ど」の付いたもの。
久方の;「天」に掛る枕詞で訳さない。
したてるひめ あじすきたかひこねのみこと
下照姫;記紀神話で大国主命の娘(女)で、味耜高日子根命の妹、
天稚彦の妃。天稚彦が高皇産霊神に罪を責められ処刑された時、その悲しみの声が天まで達したと伝わる。
粗金の;「土」に掛る枕詞で訳さない。
土;大地。地上。「天」に対する「土」
すさのおのみこと いざなぎのみこと あまてらすおおみかみ
須佐之男命;素戔鳴尊とも。日本神話で伊弉諾尊の子で天照大御神の弟。凶暴で高天原へ行って天の岩屋戸の事件を起こし、諸神によって高天原から追放されて、出雲の国へ出向き八岐大蛇を切り退治した後、天叢雲剣(後の草薙の剣)を得て天照大御神にこれを献上して、根の国(黄泉の国)へ赴いた。
ちはやぶる
千早振;「神代」に掛る枕詞。通常は訳さない。
原意は、勢いの強い。荒々しい。神の威力を示す「ち」に疾風の「疾し」が付き更に…のようにふるまう意の接尾語「ぶ」を添えて上二段活用の動詞となった「ちはやぶ」の連体形と考えられている。
けらし;…していたらしい。…であったようだ。
過去の助動詞「けり」の連体形「ける」に推量の助動詞「らし」の付いた「けるらし」の約音。過去の推定を表す。
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□は文章欠落部分(或は削除か)
□*1「天の浮橋の下にて、女神・男神とお成りになったことを詠んで伝える歌である。」
□*2「下照姫とは、天稚彦のお妃である。兄人の神の容貌は丘や谷となって、輝かしいことを詠んだ、未開の民の歌であろう。
これ等は文字の数も定まらず、歌の様でもない言葉並べの類である。」
元へ
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天の浮橋;神代に天地の間に架かっていたと云う橋。
伊邪那岐命と伊邪那美命の二神が国土創成の際に高天原から降りて来る時に渡ったと云われる。
せうと
兄人;女から男の兄弟を呼ぶ時の言葉。兄にも弟にも言う。
えびすのうた
夷歌;みやびな歌に対する田舎じみた歌。
なるべし;…であるに違いない。断定の助動詞「なり」の連体形「なる」に推量の助動詞「べし」の付いたもの。
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現代語訳には解釈を込めた意訳部分も有ります。
理解し易い様に難しい単語や意味合いの幾通りもある単語などには右側に注釈を設けております。
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古今和歌集 序 第三紙

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江戸初期書写
金銀下絵古今和歌集 序
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江戸初期書写 第三紙
現代語訳 古筆かなへ 注釈 .
須佐之男命の頃より三十文字
と一文字に詠んでいる□*3このようにして
花を観賞して楽しみ、鳥を羨やましく思い、霞に
しみじみと感動して、露を愛でる心情やそれを表す言葉は
多く様々に成ったという事である。遠い
所も一歩踏み出す足もとより始まって
年月を経過して、高い山も
麓の塵と泥から出来上って、空にある雲の
たなびく処まで成長して高くなるかの様に
この和歌もこの様に生まれ育って大きくなるに違いない。
難波津の歌は帝(仁徳天皇)の治世の始りである。
□*4安積山の和歌は采女の
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み そ も ぢ み そ ひ と も ぢ
三十文字あまり一文字;五・七・五・七・七の三十一文字
ちりひぢ
塵泥;塵と泥。小さなものの喩え。(塵も積もれば山となる。)
生ひ昇る;生長して高く伸びる。
難波津の歌;仁徳天皇の即位を祝って王仁の詠んだ歌。
「難波津に咲くやこの花冬ごもり、今は春べと咲くやこの花」
(難波津に咲くこの梅の花よ、冬の寒い間には芽を出さなかったけれど、今はもう春ですよと咲いているよ、この花が。)
今までよく耐えていらっしゃいましたね、これからは(貴方が)花を咲かせる春ですよ。との意。
次の歌と共に手習の初めに習う歌とされている。
「安積山影さへ見ゆる山の井の、浅き心を我が思はなくに」
安積山の姿さへ写して見える(程深い)山中の泉であったなら、浅はかなこの心情を私は思い悩むことも無かったのに。
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□は文章欠落部分(或は削除か)
□*3
「須佐之男命は天照大御神の子の神である。娘と住もうと思って出雲の国に宮殿をお造りなさった時に、その位置に幾重にも重なっている雲の立っているのを見て、お読みになった。(のが)
歌[1]
「八雲立つ出雲八重垣妻ごみに、八重垣造るその八重垣を」
□*4
「大鷦鷯の帝の難波津にて御言葉が聞こえて来た時に、東宮をお互いに譲り合って皇位にお就にならないで三年になってしまったので、王仁というお方が気掛りに思って、詠んで差し上げた歌である。こ(木)の花とは梅の花を言っているのであろう。」
元へ
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(盛んに雲が湧き立つのに似ている出雲の八重垣、妻を籠らせるために八重の垣を作る、その美しい八重垣を。の歌である)
八重垣;幾重にもめぐらした垣根。
須佐之男命が新婚の為の宮殿を造った時の歌。五・七・五・七・七の短歌形式の最初の歌とされる
おおさざき
大鷦鷯の帝;仁徳天皇。
難波津;大阪湾の内、難波一帯の港湾部。
東宮;東方は春に配し万物生成の意を含み、易では東を震とし震は長男を表すことから、加えて昔はその宮殿が皇居の東に位置していたから言う皇太子の宮殿。皇太子の称にも使い、春の宮とも言う。春宮(とうぐう)とも書く。
わに
王仁;百済から渡来した漢の高祖の末裔とされ、日本書紀によれば応神天皇の時に阿直岐に推挙され来朝、論語10巻と千字文1巻を伝えたとされる。西琳寺を氏寺とする文筆専門の氏族、西文氏(かわちのふみうじ)の祖とされている。
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現代語訳には解釈を込めた意訳部分も有ります。
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古今和歌集 序 第四紙
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江戸初期書写
金銀下絵古今和歌集 序
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江戸初期書写 第四紙
現代語訳 古筆かなへ 注釈
冗談ごとで詠んで、□*5この二つの歌は
歌の父母のように、手習をする
人の最初の練習であった。謹んで申し上げれば歌の
形式は六つである。唐の歌にもこの様に
有るようである、その六種類の一つには
諷歌、大鷦鷯の帝をよそえて
差し上げられた歌
歌[2]難波津に 咲くやこの花 冬ごもり
今は春べと 咲くやこの花
という歌であろう。二つには数え歌
歌[3]咲く花に 想い付く身の 味気無さ
身にいたづきの 入るも知らずて
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戯れ;戯れる事。お遊び。冗談。
抑々;さて。ところで。いったい。など
物事を説き起こす時などに文の冒頭に用いる言葉。
唐;漢の国。中国
そえうた
諷歌;遠回しにそれとなく諭し、例えでそれと推察させるやり方の歌。物によそえて詠んだ歌。
歌[2]、
難波津に咲くこの梅の花よ、冬の寒い間には芽を出さなかったけれど、今はもう春ですよと咲いているよ、この花が。
今までよく我慢していらっしゃいましたね、これからは(貴方が)花を咲かせる春(順番)ですよ。との意。
数え歌;六義の「賦」に当たる。その意味内容は明らかにされてはいない
歌[3]、咲く花に心惹かれる我が身の情けない様よ、(その間にもつぐみに猟師の矢が射込まれるかのように)私に病の訪れるのも知らないで。
味気無さ;情けない。苦々しい。面白くない。無意味だ。
いたつき;「病き」と「平題箭」との掛詞。「入る」は「射る」との掛詞。
「想い付く身」には小鳥の「つぐみ」が読み込まれている。
いたつき
平題箭;矢先の平たくなった練習用の矢じり。
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□は文章欠落部分(或は削除か)
□*5
「葛城の大君を陸奥国に派遣なさっていた時に、国司の仕事が粗末なことになると云って、準備などをなさったのですがつまらなかったので、先程の采女とかいう娘の素焼きの盃を取って詠んだそうである。これを機に大君は心がくつろいだのである。」
元へ |
かづらきのおおきみ すいぜいてんのう
葛城の大君;綏靖天皇。記紀伝承上の天皇。神武天皇の第3皇子。
みちのくに
陸奥国;磐城・岩代・陸前・陸中・陸奥の五か国の古称。
くにのつかさ かみ すけ じょう さかん
国司;朝廷から諸国に赴任させた地方官。「守」「介」「掾」「目」の四等官とその下に史生が有った。
まう
設け;準備。支度。用意。などの意。
荒まじ;その場にそぐわず面白くない。荒涼としている。
心解く;気持ちが和らぐ。わだかまりが無くなる。
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現代語訳には解釈を込めた意訳部分も有ります。
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