三十六人集(西本願寺本)
躬恒集 装飾料紙 清書用臨書用紙 (半懐紙)          戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ

古今和歌集の撰者の一人でもある凡河内躬恒の家集。長年書き溜められた自身の歌を出来る限り年代順に書き綴ったものだが、錯誤もある。屏風歌をはじめ、歌会、歌合せなど題詠歌が多く、贈答関係によって入っている他人の歌も多少の物が含まれている。帖は完存しており、料紙四十二枚、歌の総数は483首である。内漢詩が7首、聯歌が6首含まれている。現存する躬恒集はいくつもあるが、凡そ7つに分類され本集の物が最も歌数が多い。
この帖に使われている継紙は九枚。重ね継は無く、破り継八枚(内破り継だけのもの二枚、切継を伴うもの六枚)、切継だけのもの一枚である。また、墨流し・隈ぼかし・銀泥風景画下絵など凝った作りの装飾料紙も多い。
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写真の拡大及び書手本は準備ができ次第順次掲載いたします。
                       





『墨流し』

書手本

 
三十六人集 染紙 『墨流し』 (躬恒集)   使用字母
及び解説へ
 墨流し  躬恒集別柄部分書手本 第二十七紙 縦6寸7分、横1尺5分5厘  (田中親美氏模写本)

歌番号は躬恒集内での通し番号           青色文字は使用字母
287
 わがこひは しらぬみちにも あらなくに
 まどひわたれと あふ人もなし

288         く に ぞ
 ひとりぬる ひとにきかくに
 かみなづき、にわかにもふる はつしぐれかな

   
ていじいん
   亭子院に
   かつらのきをほりてたて
      

   まつるにき
289
 みかくれて ふけゐのうらに ありしいしは
  おいのなみにぞ あらはれにける

290
 ことのはを つきのかつらに えたなくば
  なににつけてか そらにつてまし

   をみなへし
291
 ぬしもなき やどにきぬれば
  をみなへし、はなをぞいまは
      あるじとは
        おもふ


287
 和可己比盤 志良奴美地爾毛 安良那久仁
 末止比()堂礼止 安不人毛奈之

288           久仁所
 飛登利奴留 悲止仁幾可久仁
 閑美那川支、爾和可爾毛婦留 盤川之久礼閑那

   亭子院二
   閑川良乃幾遠保利天多天
      

   万川留爾幾
289
 見可久礼天 婦遣為乃宇良仁 安利之以之八
  於以乃那三仁曾 安良盤礼爾計留

290
 己止乃者遠 川幾乃可川良仁 衣多那久波
  奈爾々徒个天可 所良仁徒天末之

   遠美那部之

 奴之毛那支 也止仁幾奴礼盤
  遠美奈部之、盤那遠曾以万波
      安留之止盤
        於毛不


「禮」は「礼」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。

287
私の恋はまるで知らない道でも無いであろうに、途方に暮れて歩き回れと云わんばかりに(誰一人として)逢う人もい無い。

288
一人寝ていた時の事、人の聞く処によると今月は神無月であるそうな、思いがけずも降って湧いた初時雨だなあ。(冷たい風でも吹き込んできたのでしょうか、突然降り出した冷たい雨に「ああ冬が来てしまったんだなあ」としみじみとした侘しさを詠んだもの。)

神無月;陰暦十月の異称。謂れには諸説あるが、よく知られた俗説では八百万の神々がこの月出雲大社に集まる為、諸国の神が留守になる事から名付けられたと云うもの。所によってはこの季節の風を「神渡し」「神立風」と呼ぶのは、出雲への神々の旅立ちと結び付けたものといわれる。

289
見て見ぬふりをしていたのだが、噴井の浦に在ったはずの石は、やはり(噴井の波の如く)老いの波に洗われてしまっていたのだなあ。(あんなに堅物だった御人でも、寄る年波には勝てず、年相応に現れていたのだなあ)

290
言葉(和歌)を月に棲むという美男子の仙人に得られ(得意技とされ)たくなければ、何かにつけて空に言伝した方が宜しいのでは。(桂は中国の伝説で月に生えていると云われている木、月は目にすれども手に取る事が出来ない、手に入れる事の出来ない人の例えとして和歌に詠まれた。ここでは愛しいあの人を桂男に取られたくなければ、と云った処か)
或は「啁たなくば」として、嘲笑われたくなければと解釈することも出来る。

291
(とっくにもう)主も居ない(寂びれた)屋敷に来てしまいましたが、女郎花の花をこそ今ではここの主と思いますよ。
「をみな」は若い女、或は美女を指す。「をみなへし」はそれを連想させる花として古来より歌に詠まれた。


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  訂正文字部写真
三十六人集 染紙 『墨流し』 (躬恒集)










写真一行目
「仁」の横に「乃」の文字


写真五行目
「爾」の横に「止」の文字


「可久仁」の横に「久仁所」の文字





写真二行目
「良」か「之」の横に「之」の文字
                                                  戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ

凡河内躬恒;平安前期の歌人で三十六歌仙の一人。古今和歌集撰者の一人でもあり、宇多天皇・醍醐天皇に仕え、紀貫之・壬生忠岑と共に歌聖に次ぐ歌人と並び称された。卑官でありながらも紀貫之らと共に古今和歌集を撰進し、即興の叙景歌にも長けていたとされている。尚、古今集以下の勅撰集に194の歌が残されている。当時の歌人にとって勅撰集に名を連ねることは、最高の栄誉とされていた。生没年不詳。

勅撰和歌集;天皇の勅命又は院宣によって選ばれた和歌集で、平安時代の古今和歌集から室町時代の新続古今和歌集までの二十一集。最初の三集を三代集、最初から八集までを八代集、残りの十三集を十三代集と云い、すべてを合わせて二十一代集と呼ぶ。


躬恒集料紙組順 料紙順の青色文字は本清書用使用部分(裏面を清書用として組入れている部分も在ります)

  紙順     料紙主仕様                          料紙特徴
第一紙   染紙『梅林に雉』
金銀砂子(銀泥絵付)
 金銀泥で梅林が右端中央付近から左項中程下にかけて一列に並んで梅林が描かれている。その下側に蕨と雉砂子は極めて疎ら左上に雁の群。右項に墨付けは無く左項よりの書き出し。
第二紙  染紙『全面墨流し』
全面金銀砂子振
 薄茶地に全面墨流し、全面にパラパラと粗い砂子振り。裏面には墨流しは無く密に砂子振り。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第三紙  雲紙『水辺の柳』
全面金銀砂子振
 淡目の雲紙。右上遠くに稲掛と泥引きの飛雲暈し。中央より下に柳と萱、茅など。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第四紙   染紙『隈ぼかし』
金銀特大切箔ノゲ
 薄紫地に茶紫の暈し。1cm~1.5cm角の金銀特大切箔散し、全面金銀ノゲ砂子振。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第五紙   染紙『上下隅ぼかし』
全面金銀小切箔砂子振
 黄茶地に右上、左下の上下隅に紫の暈し。全面に金銀小切箔と粗い砂子振り。
花鳥折枝金銀泥手描き、裏面は同様の暈しに特大ちぎり箔散し。
第六紙   ギラ引唐紙
花唐草(白雲母引)
 薄黄茶具引に全面白雲母引、更に上から黄土色の胡粉で花唐草の柄を打ったもの。
裏面は丸獅子唐草。花鳥折枝金銀泥手描き。
第七紙   染紙(濃色藍色)
全面金銀砂子振
 濃色の藍色染に金銀の花鳥折枝袷絵。松枝・柳・桜草・草藤・紅葉・千鳥。墨入れ無。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第八紙   染紙『隈取』
全面金銀砂子振
 淡茶色の染紙に全面金銀砂子振、振り量に粗密が付けてある。松枝・柳・紅葉・千鳥(少数)
花鳥折枝金銀泥手描き。
第九紙  具引染紙(白地)
全面金銀中小切箔振
 全面金銀中小切箔振。裏面は白地に唐子唐草の具引唐紙、更に疎らに中小切箔振。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第十紙   具引唐紙・切継
丸鳳凰唐草(薄紅具引)
 薄紅地具引に黄雲母で丸鳳凰唐草。上側中央付近から左下隅やや上まで左上隅に丸獅子唐草の切継(この継紙の裏面のみ金銀砂子振)。花鳥折枝金銀泥手描き 
第十一紙   ギラ引唐紙
菱唐草(黄雲母引)
 黄茶地に雲母引黄土色の胡粉で菱唐草の柄刷り。松枝・桜草・紅葉・千鳥。裏面は獅子唐草。花鳥折枝金銀泥手描き。
第十二紙  破り継料紙
染紙(朽葉地全面砂子)
 左端に上部が広い薄藍の継紙で斜めの切継、右上隅に紫の継紙で破り継、その下に下側が広い斜めの切継。中央部分は砂子を散らした朽葉色の染紙。花鳥折枝金銀泥手描き。
第十三紙  染紙『叢雲ぼかし』
ちぎり箔(茜地草原下絵)
 茜色地に叢雲ぼかし、全面に金銀揉み箔。草原銀泥描き、左上端に小さく松林を遠望する。
花鳥折枝金銀泥手描き。裏面は叢雲ぼかしに特大切箔散し。
第十四紙  染紙『石山御幸前』
全面金小切箔振
 薄黄土地全面に金揉み箔、金小切箔。松枝・芒・紅葉・千鳥。
花鳥折枝金銀泥手描き
第十五紙   染紙『隈取』
群雁(大小切箔ちぎり箔)
 全面に雁の群。右上隅大切箔、中央やや下側斜め左下がりにちぎり箔。その上側右下がりに短冊切箔。 花鳥折枝金銀泥手描き。
第十六紙  破り継料紙『枝松咥鶴』
檀紙(薄茶地)
 右上隅に滅赤と紫の破り継二段。台紙は薄茶地の檀紙に枝松を咥えた飛鶴と枝松が金銀泥手で描かれている。裏面は千鳥のみ描かれている。
第十七紙  破り継料紙『悲止衣多』
染紙(朽葉地)
 右端に上部が広い薄茶の継紙で斜めの切継、左下隅に紫の継紙で破り継、その上に薄藍で上側が広い斜めの切継。中央部分は砂子を散らした朽葉色の染紙。花鳥折枝金銀泥手描き。
第十八紙  染紙『草花』
(薄黄紅地)
 黄色と薄紅が滲んだような地色に桔梗・芒・松葉・草藤・千鳥など。裏面の花鳥折枝がややにじんで見える。花鳥折枝金銀泥手描き。
第十九紙  染紙
全面金銀大小切箔振
 薄茶地に大小切箔振。大切箔は疎らに、小切箔は砂子と混じる様にやや密に撒かれている。
花鳥折枝金銀泥手描き。柳・紅葉・萩・芒・草藤・千鳥など。
第二十紙   染紙 (淡藍色)
花鳥折枝金銀泥手描
 薄藍地に枝松・柳・紅葉・芒・蝶々・千鳥など。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿一紙  キラ引唐紙
丸唐草(黄雲母引)
 薄茶具引に全面黄雲母引、更に上から黄土の胡粉で二重複丸唐草の柄を打ったもの。
花鳥折枝金銀泥手描き。裏面は丸獅子唐草。
第廿二紙   染紙『左に隈ぼかし』
全面砂子振(朽葉地)
 左端に鈍色でS字形に湾曲した暈し、その下に砂嘴の様な暈しがある。全面に密に金銀砂子振り。花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿三紙   染紙『湿原と水鳥』
全面砂子振
 下方に湿原の水草と餌を啄む鷺の姿、上方には舞い立つ水鳥。全面に金銀砂子振。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿四紙   具引唐紙
七宝紋(薄茶具引)
 薄茶具引唐紙、白胡粉摺り。 すっきりとした感じの花鳥折枝金銀泥手描き。
裏面は獅子唐草に同様の花鳥折枝。
第廿五紙   染紙『菱形箔』
朽葉地全面砂子振
 やや疎らに金銀砂子振り、全体にやや大きめに菱形切箔が散らされている。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿六紙   破り継料紙『婦流左止』
二重唐草(薄黄土具引)
 薄黄土具引唐紙、二重唐草の柄を白雲母刷り。中央下に岩状の破り継、右端に上部が広く、
濃藍の継紙で斜めの切継。花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿七紙   染紙隈ぼかし『墨流し』
朽葉地(金銀ちぎり箔)
 朽葉地に茶色の隈ぼかしを左上隅と左下隅に、右側中央やや下寄りに筆で描いた隈取。
墨流し。全体に金銀大ちぎり箔の散し。花鳥折枝金銀泥手描き。
第廿八紙   破り継料紙『田舎の桜』
染紙(濃色紫)
 左端に上部が広い斜めの切継。右上隅に茜色の破り継、右端中央辺りで小さく接点を持って右下隅に斜めの切継。 中央には紫の染紙。中央と右下隅全面砂子。花鳥折枝金銀泥手描。
第廿九紙   染紙『七日』
花鳥折枝(黄檗)
 黄檗色地に花鳥折枝、枝松・芒・柳・蓼・桜草・紅葉・千鳥など。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第三十紙   破り継料紙『婦留左止』
飛雲(朽葉地)
 右端に上部が広い斜めの切継。左上隅に紫色の破り継、左端中央辺りで小さく接点を持って左下隅に斜めの切継。 中央には朽葉の染紙に3か所の飛雲。花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅一紙   染紙『横裾ぼかし』
全面金銀砂子振
 下端に横裾ぼかし。全面に金銀砂子振り。折枝に二種類の葉模様の図柄。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅二紙  染紙『以呂不可支』
草色(疎らに砂子)
 草色の地に極疎らに金銀砂子振り。桜草・枝松・柳・紅葉・蝶々・千鳥。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅三紙   染紙『浦の州浜』
銀泥手描(釣舟・浜松)
 中央が極薄茶台紙で左側に七枚の染紙でうねる様子の破り継、右側にやや斜めに細長く焦茶色の羅紋紙と小豆色の重ね継、中央では秋の七草の陰で二羽の兎が戯れている様に見える。
第卅四紙   ギラ引唐紙
七宝紋(薄黄茶雲母引)
 薄黄茶ギラ引唐紙、七宝紋白胡粉刷り。裏面は丸獅子唐草。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅五紙   染紙『濃色藍色』
全面金銀砂子振
 濃色の藍色地に全面金銀砂子振り。紅葉・松枝・柳・桜草・草藤・蓼・蝶々など。墨入れ無。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅六紙   ギラ引唐紙
小唐草(白雲母引)
 白ギラ引唐紙、小唐草(小重ね唐草)黄雲母摺。裏面は丸獅子唐草。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅七紙   破り継料紙『須爾遠礼』
小波(白具引)花唐草
 上部右側中央から右下隅にかけて白具引唐紙で破り継。その左に砂嘴状の細長い継紙、その下に濃紫で台形の破り継。左側には大きく薄茶具引唐紙(花唐草)。
第卅八紙   ギラ引唐紙
獅子唐草(薄茶雲母引)
 薄茶ギラ引唐紙、獅子唐草胡粉刷り。裏面は同柄の具引唐紙、白雲母刷り。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第卅九紙   染紙『墨入れ無』
薄紅地千鳥列描
  。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第四十紙  破り継料紙『天の川』
浮線綾紋(白雲母)
 左側、白具引に白雲母の具引唐紙。中央は縦向に濃縹色の破り継、右には朽葉色の染紙。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第四十一紙  染紙『内曇り』
飛雲(朽葉地)
  。
花鳥折枝金銀泥手描き。
第四十二紙   染紙(黄檗)
花鳥折枝金銀手描
 黄檗色の染紙。裏面の花鳥折枝が表面ににじみ出て薄っすらと見える。
花鳥折枝金銀泥手描き。

茶色の背景は重ね継、縹色の背景は破り継部分。約2割が破り継(切る継)で、唐紙は8枚その他は色々な装飾料紙となっている。


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