書道用紙の選び方

　　　　　　　　　　　　　　　　　書道用紙の選び方

はじめに

　皆さんは書道用紙を選ぶ際に、どの様な紙を選んだら良いか迷われたことは有りませんか。臨書の場合には、主だった臨書であればそれ専用の臨書用紙がありますから、これを選べば良い訳ですが、出回っていないものについては何を選んだら良いか、或は創作文書や自分らしさを表現するにはどの様な紙に書いたら良いか等、悩んだ経験も在るのではないでしょうか。

ここでは原料の違いによる紙の性質と、加工の違いによる料紙の表現力について、清書用、練習用を踏まえて解説して於きますので、参考にしてみて下さい。

まず書道用の紙にはどの様なものがあるのか、考えてみましょう。大きく分けて画仙紙と料紙の二つに分類されます。

画仙紙は主に、漢字や大字仮名～中字向きに作られております。これに対し料紙は主に仮名細字向きに作られております。ではそれぞれの特徴を見てゆきましょう。

画仙紙

画仙紙とはもともと中国原産の白色大判の宣紙で、今では大判の書画用の紙を総称したものです。輸入物の画仙紙が、宣紙・唐紙・単宣、羅紋箋や麻紙などでこれに対し国内で漉かれたものを和画仙と呼んでいます。用途や目的に応じて素紙で用いる場合と、色々な細工を施した加工紙とに分けられます。大字仮名の登場で多くの画仙紙が使われるようになりました。

大きさ

全紙（2.3尺×4.5尺）、にろく（2尺×6尺）、にはち（2尺×8尺）、連落（1.75尺×7.5尺）、全長（ぜんなが；2.3尺×6尺）、さぶろく（3尺×6尺）、さんぱち（3尺×8尺）

以上のものが現在、手漉き画仙紙として主に生産されているものです。

　全体的な特徴としては繊維の密度が低く、ふんわりとして柔らかい感じのものが多いですが、身近に大量に作ることを目的とした大雑把な印象の紙です。もちろん原材料や漉き方によって個々に違いが御座います。籤と糸との漉目があり使用している桁によって出来上がりに其々の特徴が御座います。

素紙

　素紙は吸込みも滲みもあり、その具合は原材料によって違ってきます。また書道用に予め滲み止めをした素紙もあります。これは紙を漉く際に予めサイズを漉き込んで作成した紙で、乾くと繊維の隙間をふさいでしまうため滲みのほとんどない紙に為ります。（この場合当然吸込みもほぼ止まっております）個々の紙については種類も多く大変ですので主だったものについて記載しておきます。

宣紙－安徽省宣州にて生産された紙、元々中国特産の青檀の皮（靭皮）を原料に漉かれており、白くて滑らかな紙で濃淡の出し易い細やかな滲みが特徴の漢字や水墨画に適した紙でしたが、最近では稲藁やパルプを混ぜ込んだ物が多く作られております。

唐紙－麻や楮、竹などを主原料とした中国からの紙、脆くてやや粗い感じのする黄味の紙ですが、墨汁の吸いが良い為かつては好んで書画用に使われておりました。

単宣－稲藁約7割以上、青檀3割以下の配合で漉いた紙です。時々目にする綿料単宣、この綿料が稲藁のことです。短くてやや粗い草繊維を多く使用している為、柔らかでふんわりとした仕上がりの紙になります。程よく滲みと擦れを持った紙と言えます。

　これに対し和画仙の方は、其々の地方の漉屋が独自の配合で画仙紙を漉いており、皆おらが一番で紙を漉いているため、一概に評価することは出来ません。皆さんの手で確かめて頂くことが一番です。然し乍らそれではあまりに放任過ぎますので、選考の為の一助になるよう、大まかな特徴を述べておきますので、参考にしてみて下さい。元々中国には仮名用の画仙紙は存在しませんでしたので、仮名用画仙紙は日本で作られたものです。

　仮名書き用の画仙紙としては、楮画仙紙が主です。通常は２～５種類の原料を配合して、使用目的に合った紙質に漉き上げます。楮だけで漉いたものが、純楮紙（本楮紙）で薄くて丈夫でシャリリとした紙が出来上がります。楮は原料繊維の中では、一番長くて丈夫で太く艶のある繊維で、筆の抵抗感もあり、擦れの出し易い紙になります。ただ、丈夫で長持ちはするのですが、比較的樹脂分の多い繊維のため素紙のまま長期間置いた紙の場合、やや墨をはじき易い傾向にあります。また青墨など淡墨での墨色に影響を及ぼすこともあります。純楮紙は繊維同士の隙間が多く、その滲みはややちりちりとした滲みになります。但し、繊維をよくほぐして細かく均一にしたものでは密度を高くして漉くことが出来ますので、良い紙を漉くことも出来ます。

　滲みは紙質によって異なり、原料繊維とその大きさによりそれぞれ特徴のあるものとなります。例えば同じ楮の繊維でも、繊維をより細かくして密度を高く漉いた物の方が、よりまろやかで細やかな滲みとなります。

　ここで滲みのメカニズムを簡単に説明しておきますと、素紙に筆を入れた際、墨を吸込みますが、これは和紙が水を吸込む際に墨も一緒に吸込んでいるからです。水は繊維に給水される前に、繊維と繊維の隙間を毛細管現象のように、高速で流れて行き横（周り）に広がります。これが滲みの原因です。実際には墨の粒子が繊維の中まで入り込む訳ではなく、繊維と繊維の隙間に入り込みます。殆どの墨の粒子は篩に掛けられたかのようにその場に留まるのですが（文字の部分）、一部のより細かな粒子が水と一緒に流れてゆきます。更に細かい超微粒子はより遠くまで運ばれてゆきます。こうして滲みの濃淡が生まれます。
当然のことですが、同じ大きさの筆で書いた場合、濃墨と淡墨とでは滲みの出方に差が現れます。是は運搬者である水の量が異なる為です。

　楮の他に、木材パルプや古紙パルプ（三椏・雁皮・麻その他）を配合して、質感と墨色や滲みの調整をした紙が作られております。漂白されたパルプは繊維が細かく、樹脂も分解されているので、吸込みも滲みも大きくなります。

他に三椏や雁皮だけを使用した画仙紙、或は純楮雁混合の画仙紙もありますが、高価な為にあまり作られておりません。
　
　漢字用の画仙紙は中国画仙にならって、稲藁や萱などのイネ科繊維や竹繊維などを原料に作られております。柔らかくて短い繊維を使うことで、細やかな濃淡の美しい滲みを表現できるようにしたものです。

　漉かれて間もない紙は、縦にも横にも吸込み易く滲みも強いものですが、充分寝かされた紙は締りが有り熟成されて、自然な吸込みになり穏やかに滲むか滲み難い紙になります。所謂書き易いとされる枯れた状態の紙です。勿論、原料や粘料など素材の違いにより期間も様々ですので、どの紙がどうなるかのかの検証はされておりません。然るべき年数を経た時期に、然るべき紙を選び適切なる筆と墨を持って書すれば、目的とするような書の書ける紙に出会えます。

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加工紙

　之まで述べてきましたように、素紙は通常強い吸込みと滲みを持った紙で、墨を入れると裏まで抜けてしまいます。これに書を書き易くする為に、吸込みと滲みの具合を調整したものが加工紙です。加工紙にはその吸込みの程度によって番号が付けられているものがあり（０～９番加工）、目的の書のための紙を選ぶ際の目安になります。

０番加工　；ほぼ素紙と同程度の吸込みの物、もちろん滲みもあります。主に漢字向き

３番加工　；やや吸込みを止めてあるもの、墨は紙の裏まで通りますが、ソフトな滲みがあります。大字仮名・漢字向き

５番加工　；吸込み中くらい程度の物、墨は紙の裏まで通るか通らないか程度で、滲みはほぼ無くなります。殆どの仮名に向きます。

７番加工　；少しだけ吸込みがあるものの、ほぼ止まっているもの、墨が裏に抜けることはなく、滲みもありません。仮名中字～細字向き

９番加工　；吸込み、滲み共に無し。漉込サイズ入りの紙や、礬砂処理をして加工した紙です。例えば新鳥の染紙や雁皮の具引き紙などです。料紙加工をしたもので、仮名細字～中字向きです。

以上が画仙紙における、吸込み及び滲み具合の大まかな目安です。それぞれの紙に白加工、染加工、具引き加工などがあり、更に濃淡のボカシを入れたもの、２～３色のボカシを入れたもの、そのうえで雲母や金銀の砂子、大中小の切箔や野毛を施した加工紙があります。

また縦横の筋目で織物のような風合いを出した縦横筋入りや、不規則なひび割れ模様の入った具引き剥奪等の加工紙もあります。料紙加工の縦横筋入りは、以前は凹凸のある具引きの物ばかりでしたが、より抵抗の少ない薄い具引きの物や、最近では更に抵抗を感じない柔らかい仕上がりで巻子にも向く染の縦横筋入りが出来ております。

ここで皆様に注意して欲しい事が一つ御座います。９番の料紙加工であれば、砂子や箔の上にも墨が乗りますが、加工番号が低くなるに従って砂子や箔には墨が乗り難くなるという事です。ご存知のように雲母や砂子、金銀箔には吸込みがありませんので、墨を弾き易くなっております。料紙加工では砂子や箔を振った上から更に墨が乗るようにコーティング加工しておりますので、箔や砂子の上にも字が書けるようにしてあります。本文に戻る

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料紙

次に書道用料紙について説明します。素紙の三椏半紙・雁皮半紙など広い意味では字を書く為の用紙はすべて料紙と呼べるのですが、ここでは主に仮名料紙について解説します。一般に料紙用の紙は画仙紙に比べて密度が高く、滑らかな質感の物を材料として作成されます。また漉目が目立たないか、漉目の無い沙漉された紙を使用します。

本鳥の子

　越前の雁皮使用の手漉き和紙、質により特号から４号まで有り艶が良く緻密で滑らかな上質の紙、卵色の紙で延び縮が少なく丈夫で長持ち、染加工しても色合いが深く、渋くて明るい色に染められます。墨の乗りと発色が良いです。

雁皮（鳥の子）

　野山に自生するガンピの皮（靭皮）で漉いた紙、艶が有り半透明の繊維は細くて短いが強靭で薄漉きが可能。水で伸び縮みが激しい繊維の為、紙に厚薄が出来易い（いわゆるダマに成り易く紙に仕上がった際に凸凹になり易く、綺麗な均一の厚さの紙に漉くには技術を要します）。表面は滑らかで墨の乗りもよい。薄漉の物は料紙を透して手本が見えるので、かつてはよく写経用紙に用いられていました。

新鳥の子
　
　和紙に似せて作った機械漉きの紙、木材パルプ主体で風合いは残るが丈夫さに欠け、縦にも横にも破り易く、サイズ入りの吸込みの無い紙です。加工時の色の乗りは深みに欠けるが、墨の乗りと発色は加工術である程度まで引上げることは可能です。材料紙が安い分出来上がりの料紙も安価です。具の強い紙は折れ易い為、巻物には不向きです。

本楮紙

　桑科のコウソ゛の皮で漉いた紙、繊維は太く長い為、綺麗な薄漉きには技術を要するが縦横の破れには強く、薄くて柔らかな料紙もできます。礬砂加工した紙は長期保存にはやや弱い傾向にあります。（脆くなったり墨を弾き易くなったりしますが、具引きをする事でこれを補うことが出来ます。この為本楮紙では具引きやウスイ具引きの加工が多くなっています。）やや筆の抵抗があり、墨乗りも好いです。写経用紙に多用されております。

楮雁皮

　楮と雁皮の配合紙です。緻密で艶があり抵抗感と滑らかさを併せ持った料紙になります。雁皮では滑って書き辛いと云う方には、こちらをお奨め致します。丈夫で長期保存にも向くよう作られた紙です。

楮紙製

　楮とパルプとの配合紙です。画仙紙よりも密度が高く、緻密にしてあります。配合具合により色々な楮紙があり、それにより紙質もまちまちですが、全般に筆の抵抗感はあるほうです。楮の含有量が多いと透明感のある紙に、パルプが多いと不透明に濁った紙になります。

三椏（鳥の子）

　沈丁花科のミツマタの皮で漉いた紙、繊維が細かく艶も有り緻密で美しい紙に仕上ります。やや黄茶味の強い紙です。１万円札の原料として有名で、墨乗りも良いのですが、料紙加工されたものはそれほど多くは有りません。

麻紙

　桑科のｱｻの繊維で漉いた紙で、繊維は細く長い為、漉き斑が出易く美しい紙は難しい。初期には多用されていましたが現在は稀です。見た目は楮紙に似てやや半透明で、隙間の多い紙になります。楮紙同様抵抗感があり墨の乗りもそこそこです。
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　以上主なものの材質からくる特徴を述べましたが、次は加工法に違いによる特徴について記します。

礬砂引き（どうさびき）

　水の吸込みをセーブして滲みを止める働きがあります。墨は裏に抜けず、紙厚内での自然な吸込みに留めます。膠と明礬と水との混合で紙質により礬砂水の配合を変えて、最適な留に成る様工夫してあります。混合時の温度管理は特に大変で、にじみ止めの効き具合に影響してきます。最適範囲が狭いので気を付けなければなりません。効きの悪い紙質の物にはサイズを使用することもあります。ただ多用すると墨を弾くようになるので注意が必要です。また、過ぎたる礬砂は墨を弾くだけではなく、紙質を脆くするので長期保存用の料紙など、加工の際には注意が必要です。

明礬；硫酸アルミニュウムとアルカリ金属との複合塩の総称。通常は硫酸アルミニュウム・カリウムを使用する。
膠　；動物の骨、皮、腱などを煮出した液を乾燥させたもの。ゼラチンが主成分で、飴色の透明から半透明の個体。粘着力は強いが、沸騰させると効果が極端に落ちる。

染　　　　　

　礬砂を施した段階では生成りですので、染料を塗って染めたものが染紙です。当然裏面は素色（しろいろ＝生成り）をしていますが、濃色に染めた場合など色付いて見える場合もあります。水と膠と染料で染めた紙は、素材の艶をそのまま引立てた美しい仕上がりになります。通常３～１０種の染料を配合して目的の色を作り出します。

具引き　　　

　之とは逆に染糊に胡粉を加えて色合いと筆の感触を変えたのが具引きです。不透明な糊の為下地の影響を受けにくく、見る角度によって色合いが微妙に変化する深い色に仕上がります。一般的に染に比べ抵抗感のある仕上がりになり、粒子の大きさや配合具合でその強さを調節します。墨量の調節による擦れの出し易い状態にもなります。

具引唐紙（ぐびきからかみ）　

　版木にキラ（雲母）糊を塗り、具引きした料紙を乗せて馬簾で擦り柄を転写したもので、柄の部分が光って見えます。これとは逆に柄部分が沈んで地部分が光って見えるキ゛ラ引唐紙もあります。３６人集をはじめ多くの古筆にみられる料紙です。俗に云う行成紙はこの紙になります。（藤原行成が好んで使用したことによるもの）又、キラには白雲母と黄雲母とがあり、輝き方もそれぞれでの違いがあります。

ボカシ空摺　　全面空摺（具引空摺）

　具引きをした料紙にボカシを入れ、更に版木を使用して塗った胡粉を剥ぎ取ったもので、剥ぎ取られた柄の部分では下地の色が見えてくるようになります。柄を綺麗に現し周りをぼかして柄消しするには、熟練と技術を要します。清書用ではこの後上塗りをして具引き部分と柄部分の筆感が馴染む様にしてあります。又、柄の周囲をぼかさないで紙面全体に柄出しを行った全面空摺（具引空摺）もあります。

具剥奪紙　　　具剥奪紙（具引剥奪）　揉紙

　通常の具引きに比べて多めの具を入れた糊で具引きをし、これを揉んで紙面上に不規則な亀裂を生じさせたもの。不要な胡粉を取除き、墨色の安定と筆感が馴染む様に、更に二度の上塗りを行っています。色々な古筆に利用が見られますが、寸松庵は有名で、この散し書きはバックグランドの料紙と共存して、お互いを引立てる工夫をしている良い例です。
型打ち　　　全面色型打　『菱唐草』　（墨色）　　全面ゴールド型打　『・・唐草』　（淡金唐紙）　全面金型打　『丸紋唐草』　（金唐紙）

　柄が光って見えるキ゛ラ型打（ゴールド打・シルバー打を含む）、お好みの色で柄を表現する色打、落着いた白色の胡粉打、或は金銀型打などがあり、全面型打と部分的なホ゛カシ型打とがあります。版木によるものと、シルクスクリーンに依るものとがあり、其々出来上がりの風合いが変わります。当然ながら、型の上にも墨が乗るよう加工してあります。
蝋箋　　具引蝋箋　『丸獅子唐草』

　通常とは配合を変えて具引きをし、版木を下にして料紙を置き具の表面を猪牙で擦り柄出しをしたものです。具が鏡面化され、まるで蝋で磨いたようにピカピカとした柄に見える為この名があります。蝋を使ったものと違いきちんと処理されている為、柄の上でも墨を弾くことなく細い線でも表現できる様に加工してあります。（図１）

金銀砂子磨出　銀砂子磨出　『網代に小菊』

　金銀の極小砂子（粉の様な金銀）をボカシの様に密に撒き、乾いた後に二度の上塗りをして、紙面にきっちり固着させます。２～３日乾かした後、版木を用いて猪牙で柄出ししたものです。磨出すことで砂子が鏡面化され、柄は箔のように輝いて見えます。手抜きをしたものでは砂子の下に墨が沈み文字が白っぽくなりますが、キチンと処理した清書用では、殆ど色褪せなく細い線は勿論、擦れも表現できるよう加工されております。（図２）

砂子切箔ノゲ振 銀砂子切箔ﾉｹﾞ　　金長切箔

　様々な技法の料紙に更に煌びやかな装飾を施すために、金銀の砂子・大中小の切箔、或は針のような金銀野毛を散らしたものもあります。平安時代に好んで用いられ、多くの古筆にその利用が認められます。400年前、遣欧使節団の支倉常長が持って行った書状には、ノゲとは別に長切箔の使用も認められます。清書用仕上げの料紙では、箔や砂子の上でも墨が乗るよう加工されています。

清書用仕上

　良い原材料を使用して上手に漉き上げられた和紙であれば、原紙の持っている力だけでもかなりの懐の深さが有るのですが、そこに新たなる手間を加えることによって、料紙により一層のポテンシャルを持たせるよう加工したものです。仮名文字を芸術の域まで表現できるよう通常の装飾加工の上に、更にに補助加工（性質の違う糊を２～３度塗り重ねて層を作る）を施したもので、墨の濃淡や筆の背腹は勿論、力の強弱や運筆がそのまま伝わる様工夫されています。紙面上に程よい親水性があるため、髪の毛よりも細い線をはじめ渇筆も表現できます。
又、直接書き味とは関係ありませんが、良い原料紙を使った清書用紙の場合には、表具を行ってからの展示移動等にも強く、保存状態さえ良ければ現存する文化財の様に数十年～数百年もの閲覧を可能にします。本文に戻る

練習用仕上

　主に新鳥や機械漉楮紙など安手の原紙を利用した料紙で、途中までの加工はほぼ同じですが、価格を抑える為上塗りなどはしておりません。その為紙質や加工特性に慣れることは出来ますが、運筆表現は難しくなり、また箔や砂子の上では墨を弾く場合もあります。例えば新鳥の場合、サイズ漉込の為、素紙は墨を吸いません。乾くまでの間、墨の粒子は表面を漂い、乾けば均一の味の無い文字になりがちです。（尤も墨量を自由に調節できる技量をお持ちの方であれば、墨の濃淡も筆の背腹も表現することは可能です。）加工を施すことで、墨を吸込む層が出来ます。然し乍ら層は薄い為、表現の幅は狭まります。加工を重ねるごとに表現の幅も広がります。本鳥や雁皮、楮紙などの吸込みのある原紙の場合、礬砂とそのほかの加工で吸込みを調整するため、練習用でもある程度の表現は出来ます。（図３）

　以上大まかな特徴を述べてきましたが、漢字や大字仮名の場合細やかな墨量の調整がし難く、ある程度吸込みのある紙のほうが書き易くなります。逆に仮名細字の場合、墨量の調整こそが書き手の技になります。運筆を最大限生かす確かな墨量の制御は、書を芸術の域に高めたものと思われます。料紙はそれを手助けするものであり、吸込みは止めてありますが、吸込む懐の深さは料紙の種類で変わります。良き料紙との出会いは、あなたの能力をより引出してくれることと思います。本文に戻る

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サイズ；　紙に墨が滲まないように、又は紙面が毛羽立たない様に紙漉きの際、紙料に加える薬品。書道用の和紙では、主に松脂由来のものを使用していることが多い。一般的な洋紙では、ロジン、カゼイン、ゼラチン、澱粉、合成樹脂などを使用。　本文に戻る

墨の乗り具合（運筆）


図１　蝋箋での墨乗り具合	図２　砂子磨出・切箔での墨乗り具合

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図３　料紙表面上の墨の乗りと発色イメージ図（加工層は実際には和紙厚よりずっと薄いです）　
（矢印は水分及び墨粒子の移動方向）
墨の乗り具合　吸込み程度による濃淡イメージ（点線は加工層、実線は和紙の層）
イメージ；新鳥の子は練習用加工、本鳥の子は清書用加工を表しております。加工の層の厚さは実際には和紙の層の厚さの1/5～１/10程度の厚みです。
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