三十六人集(西本願寺本)
 中務集 装飾料紙 清書用臨書用紙 (半懐紙)  戻る 『三十六人集』 粘葉本 一覧へ


中務卿敦慶親王の婦人である中務の家集で、完存しており収録されている歌の数は二五四首である。中務集は本集を書写したものと思われる転写本系統と、宮内庁書陵部蔵本の三十六人集中にある歌数二九八首の中務集とに大別される。本集と書陵部本とで一致する歌は一九二首であり、一〇六首もの歌が異なっている。又、転写本系統と思われる伝本にも七首の異なる歌が含まれることから中務集としての歌の総数は三六七首程度あったことになる。
本集には全ての歌に詞書が付けられており、詠作事情も明らかで原資料を基に書写されたものと窺われる。
前半には我が家の屏風歌、前斎宮の五十賀の屏風歌、三条太政大臣藤原頼忠の屏風歌、内裏屏風歌、
内裏名所屏風歌、朱雀院御裳着の屏風歌、坊城右大臣藤原師輔の五十賀の屏風歌、中務光昭歌合、
後半には主に贈答歌が集められ、勅に応じて奉献された歌などもある。
使用されている料紙の数は二十二枚、三十六人集中では僅三集のみの唐紙不使用の集である。ほぼ全ての染紙に粗密の違いが有れど砂子が撒かれ、中には飛雲の施されている物も在る。
全料紙組順へ)

 三十六人集 中務集 具引染紙 『飛雲』(黄檗)  三十六人集 中務集 具引染紙 (黄檗)  三十六人集 中務集 具引染紙 (茜色)  三十六人集 中務集 具引染紙 『飛雲』 (薄黄土)  三十六人集 中務集 具引染紙 (薄紫)  三十六人集 中務集 具引染紙 (濃紫)
第六紙
 染紙・飛雲
 
第五紙
 染紙・黄蘖
 
第四紙
 染紙・茜色
 
第三紙
 染紙・飛雲
  
第二紙
 染紙・薄紫
 
 第一紙
 染紙・濃紫
三十六人集 中務集 具引染紙 (浅草色)  三十六人集 中務集 具引染紙 (深草)  三十六人集 中務集 具引染紙 (濃紫)  三十六人集 中務集 具引染紙 (茜色) 三十六人集 中務集 具引染紙 (茜色)  三十六人集 中務集 具引染紙 (縹色) 
第二十紙
 染紙・浅草
 
第十九紙
 染紙・深草
  
第十六紙
 染紙・濃紫
 
第十三紙
 染紙・茜色
 
第九紙
 染紙・茜色
 
第七紙
 染紙・縹色
 


三十六人集 飛雲ぼかし 『金銀砂子振』 花鳥折枝金銀袷型打 (中務集 )
染紙(薄黄土色) 飛雲ぼかし 金銀砂子振り 花鳥折枝金銀袷型打

写真は半懐紙の為、臨書手本よりも一回り大きくなっております。
(本料紙は中務集第三紙の代用品です。飛雲の位置、花鳥折枝等は実物とは異なります。)

三十六人集 飛雲ぼかし 『金銀砂子振』 花鳥折枝金銀袷型打拡大 (中務集 )   三十六人集 飛雲ぼかし 『金銀砂子振』 書手本(中務集 )
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使用字母
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 花鳥折枝金銀袷型打部分拡大(中央やや上側部分)  
 
三十六人集 飛雲ぼかし 『金銀砂子振』 花鳥折枝金銀袷型打拡大 (中務集 )
 
 花鳥折枝金銀袷型打部分拡大(右下側部分)  


臨書手本

三十六人集 飛雲ぼかし 『金銀砂子振』 書手本拡大 (中務集 )  使用字母
及び解説へ
 染紙(薄黄土色)飛雲ぼかし  書手本 第三紙 縦6寸7分、横1尺5分5厘   使用字母及び解説へ

歌番号は中務集での通し番号                    青色文字は使用字母

   
(いけにのぞきたる松にふぢかかれり)

12

 
(きみをおもふ あだしこころも なきものを、)*1
 いけのふぢなみ まつこえにけり


   たちばなにほととぎすのなくに
13
 いろかへぬ はなたちばなに ほととぎす、
 ちとせならぶる こゑぞきこゆる


   のにかりしたる
14
 をみなへし かりのたよりと ききしまに、
 あまたの秋は のべにきにけり

   やりみづのつらにきくさけり、をと
   こふみかく
15
 あかれつつ かげもみるべく みきはなる、
 きくにこひしき 人はならなむ


   としのうちに春たつ雪ふる梅さきけり
16
 ふるゆきの したににほたる むめのはな、
 しのひにかけて 春はきにけり


   村上の先帝の御屏風にの火やくところ
17
 はるはかく のをのみやくと おもふまに、
 なべてくさきも いかでもゆらむ


   春ををしむまにかへるかりなく


   
(以計爾能曾幾多類松二布知可々礼里)
12
 
(幾美遠於毛不 安多之己々呂毛 那幾毛能遠、)*1
 以毛能布知那美 末徒己衣爾个利


    
多知者那爾本止々幾須能奈久爾
13
 伊路可部奴 者那多知波奈爾 保止々幾須、
 知止世奈良不留 己衛所幾己由類


    乃爾可利之多流
14

 乎美那部之 可利能多與利登 幾々之末爾、
 安末多能秋八 乃部爾幾仁个利


    也利美徒能川良爾幾久佐个利、越登
    己布美可久
15
 安可礼徒々 可計毛美類部久 美幾八奈流、
 幾久爾己比之幾 人八奈良奈無


    止之能宇知爾春多徒雪婦留梅左幾个利
16
 布類由幾乃 之多爾々本多留 武女能者那、
 之乃比爾可計天 春波幾爾个利


   村上能先帝能御屏風爾能火也久止己路
17
 者類波可久 乃遠能美也久登 於毛不末爾、
 奈部天久左幾毛 以可天毛由良無



    春遠々之武末爾可部留可利奈久

( )*1は前項に有り
「禮」は「」とすることも。
「爾」は「尓」とすることも。
「个」は「介」とすることも。

「與」は「与」とすることも。

12
貴方の事を愛おしく思っていますよ、移り気などあろうはずは有りませんのに、池の淵に在る藤波は松を越えてゆらゆらと揺れ動いておりますよ。(私の心も、待つ身を通り過ぎて何故だかゆらゆらと揺れ動いておりますよ。)

あだし
他し;他のものである。異なっている。

ふぢなみ
藤波;藤の花が波が動くかのように揺れ動く様。また、なみなみと咲く藤の花。

13
声色もその花色も変える事のない花橘に時鳥よ、限りなく長い年月に匹敵させる名声であるとの評判ですよ。

はなたちばな
花橘;花の咲いている橘。橘は食用柑橘類の総称で、其の昔「時じくのかくの木の実(非時香菓)=夏に実り、冬になっても香味が変わらない木の実」とも呼ばれていた。「其の非時香菓は是れ今の橘なり」(古事記)。

14
女郎花の咲く頃(初)雁の便りと聞いている間に、数多くの秋がこの野辺に来ては通り過ぎて往きましたよ。(お慕いする方からの便りはとうとう私の許には届きませんでした。)

かり  たよ
雁の便り;便り。手紙。前漢の時代、匈奴に捕えられた漢の蘇武が雁の足に手紙を付て漢に連絡したという漢書の故事によるもの。「雁の使い」とも。

やるみづ

遣水;寝殿造の庭園などに水を導き入れて流れる様にしたもの。


15
別れつつある様に姿も見えるらしく、菊の幹もそう成っている様子であるが、(私も)菊(聞く事)に恋い焦がれている人に成ってしまったようですよ。

 あか
散れ;別々になる事。別れ散る事。

16

降る雪の下より何処からともなく幽かに香って来る梅の花、御しのびを兼ねて春は既に来ていたのですね。

しの
偲ひ;深く思い慕う事。

17
春はこのように野原だけを焼くものだと思っておりましたのに、一面の草木も(燃えてしまったはずですのに)どうして一斉に芽吹いて来るのでしょうか。

帰雁; 春を惜しむ間に帰る雁鳴く。(四月ごろ北へ向かう雁の鳴声は悲哀の情を誘い、古来詩歌に数多く詠まれてきた)



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中務;平安中期の歌人で三十六歌仙の一人。古今和歌集を勅撰したことで知られる醍醐天皇の皇弟で中務省長官、中務卿敦慶親王の王女。家集は『中務集』、天暦・天徳歌合せの作者。母はやはり三十六歌仙の一人、伊勢。

てんとくうたあわせ
天徳歌合;天徳四年三月三十日宮中清涼殿で催された歌合であり、12題20番を採った。これ以後の歌合の規範となり、天徳四年内裏歌合とも称された。

もぎ
裳着;主に平安時代、女子が成人して初めて裳を付ける儀式(男子の元服に当たる)。12歳から14歳頃で特に配偶者の決まった時、或はその見込みのある時に行うことが多い。この時には垂髪を改めて結髪にし、初笄(ういこうがい)と呼ばれた。

ふじはらのもろすけ
藤原師輔;平安中期の貴族、藤原忠平の子供で、京都九条に住んでいたことから通称は九条殿。子の兼通・兼家や孫の道長が関白を継承したことから、摂関家の祖となる。著書に「九条年中行事」、日記に「九暦」。960年没。


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中務集料紙組順

  紙順     料紙主仕様                          料紙特徴
第一紙   染紙(濃紫染)
金銀砂子振、墨入れ無
 濃紫染紙に金銀泥で花鳥折枝が全体に描かれている。枝松・柳・紅葉・芒・千鳥など。
全面にやや密に金銀砂子振。裏面にも同様の加工に花鳥折枝が描かれている。
第二紙  染紙(薄紫染)
金銀砂子振
 薄紫染紙、全面にやや疎らに金銀砂子振。紙には漉目も見られる。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・紅葉・千鳥など。
第三紙  染紙(薄黄土染)
飛雲、金銀砂子振
 薄黄土染紙、三か所に二つずつの飛雲、一か所に一つの飛雲。裏面に飛雲は無し他は同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・芒・蝶々・千鳥など。
第四紙   染紙(茜紅染)
金銀砂子振、焼
 茜紅染紙、砂子は疎ら。   裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。柳・紅葉・草花・千鳥など。
第五紙   染紙(黄檗染) 
金銀砂子振
 黄檗染紙、紙面左半に比較的多めの砂子。 裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・草花・千鳥など。
第六紙   染紙(黄檗染)
飛雲、金銀砂子振
 黄檗染紙、中央よりやや下側の左右両端二か所に飛雲。裏面に飛雲は無、他は同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・草花・蝶々・千鳥など。
第七紙   染紙(濃縹染)
金銀砂子振
 濃色縹色染紙、やや密に砂子振り。 裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・芒・草花・千鳥など。
第八紙   染紙(薄縹染)
金銀砂子振
 薄縹色染紙、やや疎らな砂子振り。花鳥折枝はやや滲んでいる。 裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・紅葉・草花・千鳥など。
第九紙  染紙(黄檗染)
飛雲、金銀砂子振
 黄檗染紙、やや疎らに砂子振り。左端・中央上・右下の三か所に飛雲。裏面に飛雲は無。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・草花・蝶々・千鳥など。
第十紙   染紙(朽葉染)
金銀砂子振
 朽葉色の染紙、砂子は疎ら。僅かに隈ぼかしがあるようにも見える。裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・蝶々・千鳥など。
第十一紙   染紙(黄檗染)
金銀砂子振
 黄檗染紙、砂子は極々疎ら。花鳥折枝は大き目でやや滲んでいる。裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・紅葉・草花・蝶々・千鳥など。
第十二紙  染紙(淡黄檗染)
飛雲、金銀砂子振
 淡黄檗染紙、砂子は細か目。小さめの花鳥折枝。下側左右と中央上の三か所に飛雲。
裏面に飛雲は無。両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・草花・蝶々・千鳥など。
第十三紙  染紙(茜染)
銀焼、金銀砂子振
 茜紅色染紙、砂子はやや疎ら。花鳥折枝は滲んでいる。 裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・芒・千鳥など。
第十四紙  染紙(黄檗染)
金銀砂子振
 黄檗染紙、砂子は疎ら。花鳥折枝は大き目でやや疎ら。裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・紅葉・草花・蝶々・千鳥など。
第十五紙  染紙(黄檗染)
飛雲、金銀砂子振
 黄檗染紙、砂子は疎ら。花鳥折枝は大き目でやや滲んでいる。裏面も同様。飛雲は三か所。
左上部中、中央下、右端中。花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・紅葉・草花・蝶々・千鳥など。
第十六紙  染紙(濃紫染)
金銀砂子振
 濃色紫色染紙、砂子は細かめでやや密。裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・紅葉・草花・桜草・千鳥など。
第十七紙  染紙(薄紫染)
金銀砂子振
 淡色紫色染紙、砂子は細かめでやや密。裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・紅葉・草花・千鳥など。
第十八紙  染紙(黄檗染)
飛雲、金銀砂子振
 黄檗染紙、粗い砂子は疎ら。飛雲は下側左端と右端の二か所。裏面には飛雲無、他はも同様。両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・紅葉・草花・蝶々・千鳥など。
第十九紙  染紙(深草色染)
金銀砂子振
 濃色草色染紙、砂子は粗めでやや密。裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・紅葉・草花・桜草・竜胆・千鳥など。
第二十紙  染紙(浅草色染)
金銀砂子振
 淡色草色染紙、砂子は細かめでやや密。裏面も同様。
両面花鳥折枝金銀泥手描き。柳・紅葉・草花・芒・千鳥など。
第二十一紙  染紙(黄檗染)
飛雲、金銀砂子振
 黄檗染紙、砂子は極々疎ら。花鳥折枝は細か目。飛雲は下側に二か所。裏面には飛雲無。
他は同様。両面花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・草花・芒・千鳥など。
第二十二紙  染紙(黄檗染)
飛雲、金銀砂子振
 黄檗染紙、砂子は極々疎ら。花鳥折枝は細か目。飛雲は下側左右と中央上部の三か所。
裏面には飛雲無。他は同様。花鳥折枝金銀泥手描き。枝松・柳・紅葉・草花・蝶々・千鳥など。



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